匂ひ

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「天、だめよ・・・・・」 口ではこう言いながら、大した抵抗もしない。 天が、調子に乗るのも当然。 私の聴覚を陥落させた天は、腰に添えていた手を、するすると胸の方に這わせた。 衣替え後の薄手の白シャツなんて、あって無いようなもの。 天の指は、私の体の肉感をゆっくりと楽しんでいく。 「天っ、ダメだって、ばっ・・・」 焦らすような触り方しないで。 もっと、って思ってしまうから。 私のほんの小さな抵抗の言葉を聞いて、天はまた耳元で囁いた。 「約束してよ。 それまで、他の男のものにならないって。」 他の、男のものに―――・・・・ 「っ、」 一瞬の、躊躇い。 脳裏を過ぎる笹尾。 その一瞬を、天は許さなかった。 「詩?約束できないの? ねえ、詩?」 「あっ、」 天の手が、私の胸を鷲掴みにした。 「詩? 約束してよ、ねぇ、詩ってば、」 「わかっ、た、分かったから・・・!!」 ちょうど、ね、 天の指が、胸の頂きの上にきてたの。 それだけでドクンッと、体が甘く痺れた。 まずい。 本当に、このままじゃ流されちゃう。 なけなしの理性が、何とか私の口を開かせる。 「天、もうおしまい、終わりっ、んっ、」 天が、私にキスをした。 ああもう、全然できる。 天とキスも、それ以上のことも。 別に、好きじゃないけど。 「詩、本当にだいすき。待ってるから。」 唇を離して、天が切なそうに言った。 それに対して、私は視線を落として何も言わなかった。 そう、としか言えない。
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