匂ひ

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「福田さん、言い返してこないね。」 私がこういうと、千奈はケロッとしてこっちを見た。 「そりゃそーでしょ! 体操服切り刻まれて、お弁当吹っ飛ばされたら、誰でも病むって(笑)」 病む、と私たちは理解しているのに。 それを、平然と声もかけずに見てる私たちは、正常なのか、異常なのか。 「ねー見て、これ彼氏がさぁ~、」 みんな、いつも通り。 *** 帰りのホームルームの時、笹尾は1ミリも笑わなかった。真顔で、淡々と話していた。 ピリピリとした空気に何人かは顔を見合わせる。 号令が終わった後、女子はコソコソと顔を突合せて話していた。 「先生めっちゃイライラしてんじゃん(笑)」 「ね、顔がガチ(笑)」 笑い事じゃないのよ、笹尾にとっては。 一方の福田さんは虚ろな表情で帰る準備をしている。 口は半開き、髪はダラリと顔にかかっていて、 ・・・・あれ、どうなの、やばくない? 「詩ちゃーーーん! 今日チア部休みなんだ!一緒に遊ぼうよっ!」 千奈が楽しそうに声をかけてきた。 遊ぶ・・・・ 「ごめーん、今日私予定があるのっ!! もー、先にチア部が休みの時は言ってー??絶対予定空けとくから!」 笹尾に、会わなきゃいけない。 清香さんのこと、聞かないといけないから。 私の返事に千奈は頬を膨らませた。 「ええ~~~~っっ、詩ちゃんと遊びたかったぁ、わかったぁ、じゃあ次チア部がない時はちゃんと言う! じゃあね!また明日っ!」 明るく、朗らかに教室を出ていった千奈。 『また明日』と言える存在がいるのは、この教室という世界を生きていく中で、とても有難いことで。 もう一度福田さんを見ると、フラフラと教室を出ようとしていた。 「ね、あれめっちゃやばくない?」 「ほんとだ、死にそうな顔してる(笑)」 誰かが、後ろで言うのが聞こえた。 死にそうな顔。 人は、本当に死ぬのよ。
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