匂ひ

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知らないでしょう、分からないでしょう。 人は、本当に死ぬのよ。 教材室に向かいながら、妙に冷静な気持ちで考える。 まさか、と思うでしょう。 突然なのよ、予告なんてないのよ、命を絶つときは、突然なのよ。 その時「えっ!?」って驚いたって、遅いの。 教材室の扉に手をかけてピタリと動きが止まった。 それを分かっていながら、見ているだけの、私。 1番、罪深いの? グッ、と扉を開けようとしても開かなくて。まだ、笹尾は教材室に来ていないらしい。 「・・・・・。」 私って、どういうポジション? 鍵を開けて、教材室に入るとタバコの匂いが鼻を掠めた。 そうっ、と笹尾の机を見てみると、タバコの吸殻が灰皿に入っている。 ・・・・だめじゃん。 ここ、禁煙なのに灰皿まで準備して、がっつり吸ってたら。 灰皿には、何本も何本も吸殻があって、無惨に押しつぶされていた。 私以外の生徒、ここに呼べないね。 みると、机の上にはタバコの箱も置いてあって、私はその中から1本手に取った。 これを吸えば、少しは落ち着くの? 笹尾。 「おい。 未成年がタバコに興味持つな。」 !! 突然声がして、驚いてタバコを机の上に落とした。 ギョッとして扉の方を見ると、笹尾が扉を開けて呆れた様子で立っている。 「せんせ、」 「鍵。開けっ放しにすんな。」 ガラガラと扉を閉めて、施錠した笹尾。 あっ・・・・・ 「ごめんなさい。」 「・・・うん。」 疲れきった様子の、笹尾。 少し、やつれた? 笹尾は頭を掻きながら机まで来ると、ドサッと椅子に座った。 「・・・清香のことだよな。まあ、座れ。」 事務的な、話し方。 まるで、仕事の一環みたいな。 笹尾には、片付けないといけない問題がたくさんある。 私にも、分かるの。
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