0711雨

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0711雨

 子供達を誘って、朝からモーニングを食べにファミレスに行く。  青と、黄緑と透明の傘が並んで歩く。  こんなに雨が続いているのに、紫陽花はもう枯れ始め、茶けて汚れた色の花を晒している。  これだから、紫陽花は嫌い。牡丹のように、潔く花を落とせばいいのに。  盛りは過ぎたのに、真っ赤な口紅を塗りたくり、いつまでも女であろうとする、寂れたスナックのママを思わせる。揺らめくタバコの煙。ロックガラスの中で、ウイスキーに、溶けてゆく氷の塊り。誰を待っているの?何に縋っているの?さっさと店を閉めて、次の人生を歩めば良いのに。そうやって、誰かを待って生きることしか出来ない、醜い老婆。  パンケーキに、オニオングラタンスープ、トーストにスクランブルエッグ。息子2人を前に、私の半モーニングも届く。  そして、早くも食べにきた事を後悔し始める。サラダのレタスは萎びているし、目玉焼きはレンチンだろう。白身の周りが異様な固まり方をして口の中に残る。トーストは、小麦の味も香りもなく、息子は氷を入れ過ぎたジュースと効きすぎた冷房の下、落ち着きがない。家に帰ったら、この子はお腹を下しトイレに駆け込むだろう。いつものパターンだ。  ジーンズの裾の不快な湿り気と、後悔を噛みしめながら咀嚼する。  それでも、たまにこうやって人が作ってくれて洗い物もせずに済む外食に来たくなる。  家に帰ったら、洗濯機を3回、回さないと。  雨の日。土曜の朝。  それでも、いつもより息子たちはゲームから離れて会話をしてくれた。  不意に、抱きしめたくなる。内側から生命力に溢れ、瑞々しく弾ける若葉の様な息子達。私が、少しでも離れると泣きじゃくってパニックになって、手がつけられなかったのに。あと何回、こんな気紛れなデートに付き合ってくれるのだろう。  それだけでも、来た価値があると思いたい。  たまには、ね。  「土曜日、最高ー。」  満腹になった、息子が満足そうに呟く。  それならば、私にとっても最高の休日だ。
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