25人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
少し歩いて折り返すと、停まっていたバスから彼が降りてきた。
目があって、立ち止まる。
驚いたのだけど嬉しさが勝って、「おはようございます」と自然に声をかけていた。
「おはようございます」
「出勤ですよね?」
「はい、今から」
行き先が同じだったので、並んで歩いた。私服姿を見るのは初めてで、胸がなんだか高鳴ってしまう。
けやき並木に風がそよいだ。
「そういえば」と彼は思い出したように呟いた。
「ベランダで何か育ててます?」
「はい。観葉植物を育ててますけど」
「よく見るので、じょうろを手にしてるところ」
「え、私の家わかるんですか?」
「はい。偶然、ベランダにいるところを見かけてしまって」
「全然、気づきませんでした。私、独り言喋ってませんでした? たまに花に話しかけてるから」
「花に話しかけてるんですか?」
「はい。いい天気だねとか、お姉ちゃん酔っ払って床で寝てたから死んでると思ったとか」
そう言うと、おかしそうに肩を揺らして笑った。
最初のコメントを投稿しよう!