お父さん、今日はサボります。

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「俺、オフ会で紗智に再会できてうれしかった」 「えっ? じゃあ、最初から私だってわかってて?」  啓哉は大きく頷くと、勢いをつけるかのように言う。 「そりゃあ、小6の時からずっと好きだったんだからな!」  真っ赤な顔の啓哉につられて、私まで赤くなる。 「だからその、」  啓哉は、私の目をまっすぐ見つめたままこう続ける。 「俺と、結婚してくれませんか?」  差し伸べられた大きな手を、掴まなければいけない気がして。  私は無意識のうちに啓哉の手を握り、こくりと頷く。 「はい」  途端に啓哉は顔中で笑い、大きな声でこう言った。 「初恋の女の子と結婚できるなんて俺は世界一、宇宙一の幸せ者だ!」  すると、こほんとわざとらしい咳払いが聞こえる。 「あのー、幸せを堪能中に悪いんだけどさ」  山田さんが申し訳なさそうな顔で、私と啓哉を見た。  私はスマホで時間を確認してそれから思い出す。 「あっ。そうか。代行は2時間で契約したからそろそろ時間か」 「そういうこと。そろそろ戻るよ」 「はい。ありがとうございました」  私と啓哉が山田さんにお礼を言うと、「幸せになれよ」と短く呟いて歩き出す。 山田さんの妙にくたびれた背中に向かって、私はこう叫んだ。 「ねえ! 結婚式、来てくれませんか?」 「えー? 代理父として?」  そう言って振り返った山田さんは、困ったような笑みを浮かべている。  私はにっこり笑ってから答える。 「違うよ、山田さんを呼びたいの」  私の言葉に、山田さんは照れたように笑って、それから頷いた。
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