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こんな『指定』を私は一切、していない。
じゃあ、これは父のアドリブなんだな。
でも、なんでこんなアドリブを?
もしや、ドラマチックな演出をしてくれているのか?
ああ、きっとそうだ!
私はにっこり、と笑顔をつくってこう言う。
「賛成してくれていますよ。ちょっとその、父は、たまにこういう冗談を言う人でして」
私はそこまで一気に言うと「ねえ」と隣の席の父を見る。
父は大真面目な顔で、頭を左右に振った。
それから、ハッキリとこう言う。
「俺は、お前たちの結婚には絶対に賛成できん」
「どうしてですか?」
そう言って立ち上がったのは、啓哉だった。
ガタン、とテーブルが揺れて、コーヒーがこぼれる。
スーツにコーヒーのシミができるのもおかまいなしに啓哉は続けた。
「僕は紗智さんと結婚したいんです!」
真剣な眼差しで父を見て、それから私のほうを見る。
一瞬、視線をそらしかけたけど、私は啓哉を見て微笑んだ。
「ダメだ」
父は低い声でそう言うと、啓哉を見て続ける。
「うちの娘はやめておけ……っいってえ!」
テーブルの下で思いきり父の足を踏んでやりました。
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