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ほんの一瞬、そこに足を踏み入れてはいけないような気がして足が止まる。けれどアーサーは構わずに進んでいくから、わたしもそれに引っ張られるようにして扉をくぐった。
磨き上げられた大理石の床に、シャンデリアの光が眩しく跳ね返されていてまるで宝石箱に飛び込んだみたいだった。
「こっちだよ」
アーサーに手を引かれるままに廊下を進み、ひとつの扉の前にくると、蝙蝠の形のノッカーがいかめしくこちらを見下ろしていた。
アーサーの長い指がノッカーを引く。
カンカンカンと3回音が響くと、中から黒髪の女性が現れた。
「アーサー、いらっしゃい。それと、ジェミンね?」
大きく開かれた扉の中へ招き入れられて、アーサーの後ろから恐る恐るついて行く。部屋の中は無数の小瓶が並べられた茶色い棚が二面、一面は上から下までぎっしりと吊り下げられたドライフラワーのような物。そして中央に置かれた大きな机の上には鍋やフラスコが隙間なく並んでいた。
「ここは?」
「チェルシー薬店よ。わたしはエリル。よろしくね」
ソファーに案内され腰を下ろすと、足元に黒猫が擦り寄ってきた。
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