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胸の中で星が音階を奏でた。アーサーのくれた星と合わせて8つの音が鳴る。
「俺も声変わりの時は声がガラガラだった。だからあんまり喋らないようにしてた」
デニスがぶっきらぼうにそう言って隣に腰を下ろした。
「俺、お前の歌好きだ。だから、また歌って欲しい」
「じゃあ、からかったこと謝って」
「うん、ごめん」
デニスは素直にその言葉を口にして、泣きそうな顔で笑った。悪ガキのデニスがごめんて言うのに、どれだけの勇気がいっただろう。
手の中にはエリルがくれた薬の瓶があった。
コルクの栓を抜いて一気にそれを飲み干した。
立ち上がって「あー」と声を出す。
前みたいな高いボーイソプラノとは違う。テノールの声。
でもガラガラ声ではなくなっていた。
「デニス、一緒に歌ってくれるんでしょ?」
デニスも立ち上がると、わたしたちは声を合わせた。夜の庭に二人のちぐはぐな歌声が響いていく。
歌いながらわたしは星に願いをかけた。
――どうか、アーサーが好きな人に会えますように。
たくさんの星が降り注ぎ、庭は賑やかな音に包まれ夜は更けていく。
空に広がる宇宙には、まだ誰も知らない音が鳴っているのかもしれない。
〈おしまい〉
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