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「澄んでいて」
お化け屋敷のようだったお城は、まるでタイムスリップしたみたいに白い壁を取り戻し、窓にはレースのカーテンがたっぷりのひだを取って止められている。
お城の主だという男性は、それこそ歌うような声でそう言うと一歩前に足を踏みだす。
「軽やか」
そう言ってまた一歩。
「そして甘い」
そして気が付けば十歩分以上はあった距離が一瞬で縮まり、いつの間にかその人は目の前に立っていた。
「素敵な歌をありがとう、お嬢さん」
わたしの手を掬い上げるようにとって、手の甲にキスを落とす。まるで王子様がお姫様にするみたいに。
彼の一言一言はわたしの歌に向けられた賛辞だった。
そんな風に聴こえるはずのない歌に向けられた嘘の褒め言葉。
危うくうっとりとしそうになっていたわたしは冷水を浴びせられたような気がして、その手を振り払った。
「嘘つき!」
鼻の奥がツンとなって涙まで出そうになったから慌ててそこから飛び出した。一目散に家まで走って帰ると、ベッドの中でクマのぬいぐるみを抱きしめて朝まで泣き明かした。
おかげで次の日は、いつもよりずっと酷い声になった。
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