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「鞄、ありがと」
次の日教室で、デニスに一言だけお礼を言った。鞄を忘れたのもデニスのせいだけど、届けてくれたお礼は言っておかないと気持ち悪いし。
「あ、ああ。その……、歌のテスト、一緒に歌ってやってもいいぞ」
デニスがもごもごと口ごもりながらそう言った。わたしは目を丸くして彼の顔を見た。
歌のテストは二人一組で歌う。昨日テストを受けなかったわたしは一人で歌う事になるはずだった。
「別にいい。もう、しばらく歌わないから」
実際、星を集めるまでは歌えない。先生には喉の調子が治るまで待ってくださいってお願いするつもりだった。
「何だよそれ。お前歌好きじゃん!」
デニスの怒ったような声に、ざわついていた教室が一瞬静かになる。
「関係ないでしょ。もう、放っといて」
デニスが酷く傷ついたみたいな顔でわたしを見ていた。何でわたしが悪いことしたみたいな気分になるの?
長い一日を終えてお城に駆け込むまで、デニスの顔が頭から離れなかった。
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