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『リドル・ストーリー』
サーシャが家に帰ると、彼女宛に一通の手紙が届いていた。
差出人は同じ文芸部のダニールだった。
「サーシャへ
今からひとつ、面白い物語を教えてあげよう。
◇◇◇◇◇
とある国では、裁判が国王の指針によりとても変わった形式で行われていた。
罪人は二つの扉の前に立たされ、扉の向こう側がわからない状態でどちらかひとつの扉を選んで開ける。
一方の扉の中には獰猛なトラが、
もう一方の扉の中には、罪人の身分に見合う女がいた。
罪人がトラの扉を開ければ有罪、その場で食い殺されて処刑される。
罪人が女の扉を開ければ無罪、罪人は女と結婚が許され罪を免れる。
裁判は大衆の前で行われ、一種の催しのようになっていた。
そんなある日、王女と家臣の若者が恋仲にあることが国王の耳に入る。
国王は激怒し、すぐさま若者を捕らえ、例の裁判にかけることにした。
恋人の命を助けたい王女は、裁判に使われる扉の中身を知る方法を手に入れる。
しかし、王女は迷った。
この裁判において、若者を救うということは、
若者が別の女と結婚することを意味したからだ。
そして、裁判当日。
二つの見分けのつかない扉の前に立たされた若者に向けて、王女は、
静かに右の扉を指差した。
若者はその合図に従い、右の扉へ手を伸ばした。
はたして若者が開けたのは、
女の扉か、トラの扉だったのか.........。
◇◇◇◇◇
これは、「リドル・ストーリー」という形式の物語で、
結末に明確な答えを与えない話なんだ。
つまり、「結末はご想像におまかせします」ってこと。興味深いと思わないかい?
......けれどね。
俺にはこの物語の結末が分かるような気がするんだ。
誰だって、好きな相手を別の人にとられるくらいなら
いっそこの手で殺してしまいたいと思うに違いない。
そうは思わないかい?
.........そうだよ、サーシャ。
俺は、同じ部活の俺を差し置いて、
クラスの人気者のヴァレリと君が、最近、付き合いだしたことについて言ってるんだ。」
まとわりつく強烈な寒気を我慢して、サーシャは手紙の続きを読んだ。
「だから、君にはトラの扉を選んでもらうよ、サーシャ。
君がこの手紙を読み終わったであろう頃に、君の所に行く」
手紙はそこで終わっていた。
サーシャは大急ぎで玄関に向かい、扉に鍵がかかっていることを何度も何度も確かめた。
それでも冷や汗が止まらないでいると、玄関の呼び鈴が鳴った。
ドアスコープには、不気味な笑顔を浮かべたダニールの姿が映っている。
サーシャの喉から悲鳴がほとばしった。
すると、玄関の向こうから、声が聞こえた。
「ごめんよ、サーシャ。あの手紙は冗談なんだ。
面白い物語を見つけたから、同じ文芸部の君に教えてあげようと思っただけなんだよ。」
そしてダニールは、「まさかそんなに怖がると思わなくて......」と、申し訳なさそうに笑った。
サーシャは、ダニールが自分を殺しに来るなんて話を信じるなんて、
彼に対して失礼だったと思い、謝った。
ダニールの答えはこうだった。
「気にしないで。あと、
結末はご想像におまかせするよ。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
.........意味は分かったかな?
「ダニールがサーシャを殺しに行くと言ったけれど、後からそれは冗談だと言った」ことが、
リドル・ストーリーになっていることに、みんなは気づいたかな?
つまり、こういうこと。
ダニールが殺しに行くと言ったのは本当に冗談だったのか、
それとも、サーシャを油断させるための嘘で、本当はやっぱり殺すつもりなのか。
結末は、ご想像におまかせするよ。
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