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『エルパドローサ』
(雪山には、エルパドローサという人を殺す怪物が出るらしい。
そいつは、かつて雪山で遭難した人間の成れの果てなんだ)
友人の言葉を思い出し、ローリャは、ただでさえ凍りそうに冷えた身体を震わせた。
一面深い雪で覆われた山の中腹で偶然見つけた小屋の中で、彼はもう半日は続いている大吹雪が過ぎ去るのを、じっと待っていた。
「雪山で遭難した人間の成れの果てか.........。
このままじゃ、俺もエルパドローサになっちまうかもな」
ローリャは、趣味である登山をしている最中、吹雪に遭い道に迷った。
つまり、遭難だ。
ところで、友人が言っていたことには、エルパドローサという怪物には、
人を殺す以外にも奇妙な特徴が4つあるらしい。
・見た目は人間と見分けがつかない。
・人間に出会ったら必ずその相手を殺す。
・相手を殺すまでに、三言しか言葉をしゃべらない。
そして、あともう一つの特徴を聞いたのだが、ローリャはそれを忘れてしまっていた。
「見た目が人間と変わらないなら、遭遇しても分からないじゃないか......。いったいどうしろって言うんだ」
そんなことをつぶやいた時。突然、小屋の扉を叩く音が聞こえた。
ダダダダン!
大きな音に、ローリャは身構えた。
......扉の向こうにある人間のような気配。
自分と同じ遭難者なら、今すぐにでも扉を開けて中に入れてあげるべきだ。
けど、もし、エルパドローサだったら?
奴は人間と見た目の区別がつかないのだ。まして気配だけでは、判別することなんてできない。
そこでローリャは、扉の向こうにこう声をかけた。
「今からお前がエルパドローサかどうか確かめる。エルパドローサの特徴を4つ全て答えろ。
エルパドローサだと思ったら、この場で殺す」
そう言ってローリャはサバイバルナイフを右手に構えた。
しばらくして、扉の向こうから、低い男の声が聞こえた。
『一つめ、見た目は人間と見分けがつかない』
『二つめ、人間に出会ったら必ずその相手を殺す』
『三つめ、相手を殺すまでに、三言しか言葉をしゃべらない』
そこまで言うと、扉の向こうの声は黙った。
ローリャは確信した。
エルパドローサは、「相手を殺すまでに三言しか言葉をしゃべらない」。
つまり、エルパドローサの特徴を4つすべて言ったとしたら相手は人間。
3つしか言わなかったら、エルパドローサだ。
そして扉の向こうの声は、3つめで押し黙っている。
.........奴はエルパドローサだ。
そして三言しゃべり終えたということは、奴はこれから自分を殺しに来る......。
その前に奴を殺すのだ!
ローリャは勢いよく扉を開け、サバイバルナイフを振りかぶった。相手はローリャと同じような、登山服を着た男だった。
すんでのところでかわされ、ローリャが勢い余って地面に倒した男の顔の真横の地面にナイフが突き刺さる。
ローリャはナイフを引き抜き、再び男めがけてその手を振る。
ナイフが、男の左胸にちょうど刺さるその瞬間、
男が、『四言め』を次いだ。
「……思い出したぞ!4つめ、エルパドローサになった人間には、自覚がないんだ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
......意味は分かったかな?
ローリャは、友人から聞いたエルパドローサの特徴を、一つ忘れてしまっていたよね。
それが、最後に男が言った、「エルパドローサになった人間には自覚がない」。
つまり、エルパドローサになったことに気づいていないってことだね。
そして、四言めをしゃべったこの男は、エルパドローサではない。
でも、エルパドローサの特徴である条件をすべて満たしている登場人物が、もう一人いるよね?
ローリャは男に向けてこう言っている。
「今からお前がエルパドローサかどうか確かめる」
「エルパドローサの特徴を4つ全て答えろ。」
「エルパドローサだと思ったら、この場で殺す。」
ローリャは、ここで「三言」しゃべっている。
そしてその後、男にナイフで襲いかかって殺してしまうまでには、
一言もしゃべっていない.........。
・見た目は人間と見分けがつかない。
・人間に出会ったら必ずその相手を殺す
・相手を殺すまでに、三言しか言葉をしゃべらない。
・エルパドローサになった人間には自覚がない。
ローリャは、これを全部満たしている。
そう、エルパドローサは、ローリャだったの。
………結局、「エルパドローサ」って一体何だったのかなぁ。
ローリャの友人が言うには、エルパドローサは「雪山で遭難した人間の成れの果て」。
ひょっとしたらエルパドローサは怪物というより、
厳しい寒さと空腹で気がおかしくなってしまった、ただの人間のことなのかもね。
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