パパ

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 伊代ちゃんとは何度か会ったこともあるんだけど、今日は異様に懐かれている。伊吹さん曰く、幼稚園のお友達の家に遊びにいったときに、お父さんという存在を目の当たりにして、かなり羨ましがっていたらしい。 「パパ、ちゅーしてあげよっか」  最初は困惑していたものの、いつかは俺と知花の間にもこんな娘ができるのだろうかと想像した俺は、もうすっかりパパモードに入っていた。 「いいの? パパ嬉しいなぁ」  そう(こた)えると、伊代ちゃんは小さな両手で俺の両頬を包むと、可愛らしくキスをしてくれた。……唇に。俺は慌てた。横目で知花を確認したが、今のは見られていなかったようで、俺はほっと胸を撫で下ろす。小さい子どもとはいえ、女の子だ。浮気だなんて思われては困る。 「伊代ちゃん、テレビでも見よっか」  伊代ちゃんを抱えたままソファーに腰掛ける。俺から離れてくれることを期待したが、伊代ちゃんは俺の膝の上から動く気はないようだ。すぐ近くに転がっていたリモコンを掴んで、テレビの電源を入れた。
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