2話

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2話

駄目だ…やっぱり気になって全然寝れない。 唇の感触はリアルだったし、夢じゃなかったよね… 何であんなことになったんだっけ? 宏隆にフラれてミスが続いていた私を、篠塚君が飲みに誘ってくれて… 色々話してる内にお酒が進み過ぎて酔っぱらっちゃって… 送ってもらってバイバイしようとしたら、何故かキスされていて… …やっぱり、分かんない。 キスするきっかけなんてあった? 何でキスしたんだろ? もしかして、篠塚君もあれで結構酔ってたとか? 私の事が好きとか、そういうのでは無いと思う…多分。 そんな空気感じたこと無いし、好きになってもらえるほど女として魅力があるとも思えない。 自分で言うのも悲しいけど。 女として魅力があったら、宏隆にだってフラれてないんじゃないかな… 「せめて、何か一言ぐらい言って欲しかった…」 つい…とか、何となく…とか、同情…とか? 何でもいいから言って欲しかった。 そんな理由?!とか怒ったりもしないし、もういい大人だから気まずくならないように流す事だって出来るのに。 何も言わずに帰るとか、逆に気になって仕方がないんだけど! 翌日。 寝不足のまま出勤すると、エレベーターの前であんまり会いたくなかった人の姿。 「おはよう、白川。ちゃんと起きれたんだな。」 「…おはようございます、篠塚課長。」 あなたのせいで寝不足ですけどね… 「二日酔い大丈夫か?」 「はい。おかげ様で大丈夫です。」 あのキスのせいで一瞬にして酔いが醒めたおかげで、初めてといっていいぐらいの酔いっぷりだったのに、二日酔いはない。 ある意味彼のおかげってことで、間違ってないはず。 「…何か、顔赤くないか?お前あの後ちゃんとベッドで寝た?風邪でもひいたんじゃないか?」 「だっ…大丈夫です…」 覗き込むように見られて、ちょっとどもってしまった。 駄目だ。 気にしないようにしようと思うのに、篠塚君の顔を見ると思い出して意識しちゃう。 顔が赤いのもそのせいだ、きっと。 変に思われそうだし、ちょっと離れてようかな… ちょっとずつ距離を取ると、何故か離れた分近づいて来る。 何で付いて来るのよ、もうっ。 「…お前、何か様子が変だぞ?」 あなたのせいでしょうよ! …でも待って。 篠塚君の態度、いつもと同じじゃない? もしかして昨日のキスの事は忘れてる…とか? なーんだ、やっぱり酔ってたのか。 私ばっかり意識してバカみたいじゃない。 …忘れよ。 「何でもありませんよ。課長の気のせいです。」 気持ちを切り替えて、ニッコリと笑顔でそう言ってあげたのに、篠塚君は怪しむように顔を近付けてくる。 目の前にドアップになった顔が、昨夜のキスの時と重なって落ち着かなくて、挙動不審に視線を彷徨わせてしまった。 心なしか顔も熱いような気がする。 急に近づくの、やめて欲しいんだけど… 「…着いたぞ。」 「あ…はい。」 ホッとしていると、目の端で篠塚君が笑っているのが見えた。 「課長、何をそんなに笑ってらっしゃるんでしょうか?」 何がそんなに可笑しいのよ。 人の気も知らないで! 「いや…朝から可愛い顔が見れたからな。嬉しいんだ。」 「は…?かわ…いい…?」 「でも、お前ちょっと何処かで落ち着いてから来い。…そういう顔、今後は俺以外に見せるの禁止だからな。」 耳元で囁かれた言葉を理解した瞬間、更に顔が熱くなった。 何言っちゃってんの?! 「お、お手洗い行ってきますっ。」 猛ダッシュでトイレに駆け込み個室に入る。 化粧ポーチに入っていた鏡を見ると、案の定頬が真っ赤。 「やばい…」 心臓がバクバク言ってる。 『朝から可愛い顔が見れたからな。嬉しいんだ。』 『そういう顔、今後は俺以外に見せるの禁止だから。』 …一体どうしちゃったの、篠塚君!? あんなこと、今まで言われたこと無いのに。 昨日居酒屋で何か変な物食べたとか? でも、私も同じ物食べたよね。 二日酔い?…には見えなかったな。 清々しい顔してたし。 「何なの一体…」 昨日といい、今日といい… 本当に、どうしちゃったの…? …よし。 もう少しで今週の仕事も終わり。 週末は、1人でのんびり温泉にでも行こうかな。 色々あったし、癒されたい… 「白川。ちょっと。」 「…はい。」 今日1日、必要最低限にしか篠塚君と関わらないようにしてたのに、最後の最後で呼び出しを食らうとは… 「ここでいいか。」 終業前だからか、誰も居ない休憩室。 何の話だろ? 「明日と明後日、予定空けておいて。」 「まさか…仕事ですか?」 「違う。これはプライベート。」 プライベート… 「はい?」 「今日のお前の反応を見て、俺決めたから。」 「決めた…って、何を?」 「もう遠慮はしない。」 篠塚君の目に、熱が籠った気がしてドキッとする。 遠慮って… まさかね、そんなはずは… 「本当は今夜もって言いたいとこだけど、残念ながら俺の仕事がまだ終わりそうにないからな。週末、絶対予定入れるなよ。仕事終わったら連絡するから、待ってて。」 「…うん。」 つい頷いちゃったけど… 家に帰ってからずっと、もしかして…と、そんなはずは…という気持ちが交互に押し寄せてくる。 そんな事無い無い、なんて自分に言い聞かせながら、ちょこちょこ携帯を見てしまう。 「はぁ…宏隆と別れたばっかりなのに…」 篠塚君にドキっとしてしまった自分が、薄情な女に思えて仕方がなかった。
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