3話

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「悪い、電話するの遅くなった。」 「お疲れ様…って、こんな時間まで残業してたの?」 もう22時回ってるんだけど… まさか…いつもこんな時間まで残業してるわけじゃないよね? 「この週末心置きなく休むためだからな。頑張った。」 「お休みぐらいゆっくりしたいもんね。」 「違う。お前と一緒に過ごすためだろ。」 「そ、そっか…」 「約束、忘れたとは言わさないからな。」 「…覚えてるよ。」 数時間前の事忘れるわけないし、忘れられるわけない。 「覚えてるならいい。それで明日だけど、10時頃お前の家に迎えに行くから、準備して待ってて。」 「うん、分かった。」 「…明日はデートだからな?」 「デート…」 「なんかお前、仕事の延長で会社の人間と会う感覚でいそうだから、念のため。」 あんな風に言われて、さすがにそれはないけど… でもやっぱり、そうはっきりとデートだって言われると、意識せずにはいられないというか。 …やっぱり、そういうことなのかな。 「映画見て、食事して、ぶらぶら散歩したり買い物したり。そういう普通のデートをお前としたい。」 篠塚君とデートするって、なんか想像出来ないな。 休日に態々約束して会う事なんて今まで無かったし、宏隆が居たからそういう対象として見たことも無かった。 「明日、楽しみにしてるから。」 「…うん。」 「おやすみ。」 「おやすみなさい。」 デート、か… そういうの、しばらく宏隆としかしてないからな。 …というか、最近は宏隆とすらもしてなかった、かも。 「…何着よう。服とかあったかな。」 クローゼットを探すけど、どれもいまいち。 そういえば、最近プライベート用の服買ったのいつだっけ… 昔はデートの度に服にお金使ってたけど、最近じゃ仕事用の服しか買ってなかったかも。 「う~ん…このワンピースが一番マシ?」 確かこれ、買ってすぐに宏隆に見せたら反応が悪くて、それ以来着て無かったんだよね。 だからこんなに綺麗なのか。 「たまにはこういうのもいいかなって思ったんだよね。」 ピンクベージュのワンピース。 ちょっとだけレースが使われてて、女性らしい感じで気に入ったのに、イメージじゃないって言われたんだよね。 今思えば、どういう意味よって感じだけど。 「…篠塚君は、これを着た私に何て言うんだろう?」 やっぱりイメージじゃないって言うかな。 これが似合うほど女っぽくないっていう自覚はあるし、言われても仕方ないんだけど。 でも、篠塚君にまで言われたら… 「…もうこんな時間か。」 どれだけ考え込んでたんだろ。 明日10時って言ってたし、そろそろ寝ようかな。 「よし、メイクは出来た。」 休みだというのに早起きする事になるとは思わなかったけど、そのおかげで何とか約束の時間までに準備が終わりそう。 「でもやっぱり、何か…」 いつものヘアメイクでこの服だと、合ってないというか… 「う~ん…髪でも巻いてみようかな。」 久しぶりだから、上手く出来るかちょっと自信無いけど。 「アチチっ。」 そうだよね、巻いた直後の髪はそりゃ熱いよね。 …そんな事すら忘れるぐらい、やってなかったんだな。 「…うん。いいかも。」 やっぱヘアスタイルって大事。 さっきまでの違和感が減ったもんね。 …それにしても。 「これ、気合い入り過ぎてない…?」 いかにもデートですって感じなんだけど… でももう10時になっちゃうし、やり直す時間は… ~♪ 「はい。」 「俺だけど、今下に着いた。ちょっと早いけど出られるか?」 「えっと…」 来てるなら、待たせても悪いよね… いいや、もうどうにでもなれっ。 「今から降りるね。」 「待ってる。」 鞄を持って急いで出ると、マンション前に佇む篠塚君の姿が見えた。 「お、お待たせ…」 「…」 無言の篠塚君と見つめ合う事数秒。 「…会社のイメージと違い過ぎて、ちょっとびっくりした。」 「そ、そうだよね。自分でもこういうのイメージじゃないって…」 「似合ってる。」 「え…」 「似合ってるよ。お前の私服見るの初めてだけど、可愛い。髪とか会社と違う雰囲気だから、デートって感じがするし。俺は嬉しい。」 「そう、なんだ…ありがと。」 まさかそんな風に言ってくれるとは思ってなかった。 …嬉しいな。 「…そういえば、篠塚君の私服見るのも初めて。」 「ん?ああ、そうかも。休みの日に会う事なんて無かったもんな。…誘いたくても誘えなかったし。」 宏隆が居たからって事だよね… 「でもこれからは、こうやって休日にも会いたい。」 もう遠慮はしないーー。 そう言われた時と同じ目で見つめられて、篠塚君から目を逸らせない。 求められてるんだろうなっていう嬉しさと同時に、フラれて傷心だからって篠塚君につけこむようなことしちゃ駄目だとも思ってる。 「じゃあ、行くか。…ほら、手。」 「え?」 「繋ぎたい。デートだし。」 戸惑っていると、サッと手を取られて繋がれてしまった。 大事そうにぎゅっと握られてしまったら、外してほしいなんて言えない。 「…お前の手、思ったよりちっさいんだな。」 「そう、かな。篠塚君の手は…大きいね。」 男の人特有の骨ばった感じと、温もり。 それを感じるのが久しぶりな気がして、何でか少しだけ切なくなった。
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