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4話
「映画、何か見たいのある?お前が見たいの優先する。」
「う~ん…」
気になる映画は見ちゃったからな。
「篠塚君は無いの?」
「俺か?そうだな…これとか。」
「恋愛系好きなの?」
こんなガッツリ恋愛系を選ぶなんて、ちょっと意外。
アクション系とかサスペンスとか、そういうの選ぶかと思ったのに。
「普段は見ない。でも、お前と見るならこれがいい。」
「何で?」
「お前とそうなりたいから。」
そうなりたいって…
「…ちゃんと分かってる。長く付き合ってた恋人と別れたばっかりだから、色々考えてるんだろ?」
「うん…」
「でも俺は、もう二度と他の男に後れを取るつもりはないから。また誰かにお前を取られるのなんてごめんだ。だから、遠慮はしない。」
また…?
「…それで、どうする?この映画でいいか?」
「あ、うん…」
「じゃあチケット買ってくる。ちょっと待ってて。」
…さっきの言い方、どういう意味だろう。
あの言い方じゃまるで…
まさかね。
流石にそれはないよね…?
「案外良かったな。」
「うん。凄く楽しめた。最後ちょっと泣きそうだったし。」
ときめいたり切なかったり…
恋愛系の映画を見ると、感情が結構動くから大変。
だけどやっぱり、思い合ってる2人が幸せになる姿は、見ているこっちまで幸せな気持ちになれる。
映画のラストを思い出してぼんやりしていたら、頭を撫でられたような気がして意識が現実に戻った。
「お前、やっぱ可愛いな。思ってる事全部顔に出るって初めて知った。」
「…可愛くない。」
「可愛いよ。少なくとも、俺にとってはな。」
そんな優しい顔して言わないでよ。
何も言えなくなるじゃない…
「ちょうどお昼だし、食事にするか。」
「…うん。」
「じゃあこっち。」
また繋がれた手を引かれながら、大人しくついていく。
でもこっちって、あんまり食事できるような所無いと思うんだけど…
「…ねぇ、もしかしてここ?」
「ああ。」
まさか、ランチがホテルのレストランだなんて思ってもなかった…
「いらっしゃいませ。」
「予約していた篠塚です。」
「篠塚様ですね。お席へご案内します。」
昨日の今日なのに、いつ予約したんだろ。
こういう所滅多に来ないから、すごく緊張しちゃう。
篠塚君は、恋人とこういう所によく来るタイプなのかな。
「ビックリした?」
「うん。凄く驚いた。でも予約いつのまにしたの?」
「昨日の朝一。取引先の人に、ここの関係者の人がいるんだ。だからその人にお願いした。ここ、美味しいって評判だから。」
「…こういう所、よく来るの?」
「いや、全然。プライベートでこういう所に来るのは…多分人生初?」
その割には、凄く堂々としてるな。
あんまり緊張とかしないタイプなのかも。
「だから、正直緊張してる。」
「えっ?うそ、全然そんな風に見えないよ?」
「隠してるだけ。お前にかっこ悪い所見せたくないからな。こういうのスマートに出来る男の方がいいだろ?」
「ふふっ…そんな事気にしなくていいのに。」
結局言っちゃったら意味ないと思うんだけど。
ちょっと可愛いな。
「それだけお前に必死ってことだ。」
「…あのね、私が言うのも変かもしれないけど、無理はしないでね。」
「お前の為なら、これぐらい大したことない。」
「…そういうのもサラッと言わないで…」
そういうこと言われるとドキドキしちゃって、どうしたらいいか分からない。
「遠慮しないって言っただろ。」
「そうなんだけど…」
心臓がおかしくなりそうで…困る。
…篠塚君は、何で私なんだろう。
この人なら私なんて選ばなくても、他にもっといい人いると思うのに。
「噂通り、美味しかったな。」
「うん。凄く美味しかった。連れてきてくれてありがとう。」
篠塚君が連れてきてくれなかったら、きっと来る機会なんて無かったと思う。
「初めてのデートだし、少しは特別な事したかったからな。その笑顔が見れて良かったよ。」
…愛しそうに見つめるとか、ズルい。
篠塚君の気持ちにつけこむみたいで嫌なのに、このまま流されてしまいたくなる。
自分の気持ちも、まだよく分かってないのに。
お昼からは、買い物したりブラブラ散歩したり。
篠塚君が言っていた通りの普通のデートが楽しくて、あっという間に帰る時間になっていた。
…本当に、楽しかった。
自分でも、ちょっと驚いてる。
相手が篠塚君だから?
つい2日前まで、ただの同期だったのに?
「俺の買い物にまで付き合ってくれてありがとな。」
「全然いいよ。ネクタイ選ぶのとか久しぶりで楽しかった。」
「そうか。…あ。もう着いたな。上まで送る。」
玄関まで送ってもらうのって、なんかあの日の夜を思い出して、ちょっと意識しちゃうな…
「じゃあ、あの…送ってくれてありがとう。」
「なぁ、ちょっとこっち来て。」
「?」
何かあるのかと思って近づいたら、急に至近距離に現れた顔に思わず目を瞑ってしまった。
小さく笑う息遣いの後、瞼に優しく触れた感触がして目を開けると、何でか嬉しそう。
「な、何っ?」
「動揺し過ぎだし、顔赤い。可愛すぎて本当は口にもしたい…でもここは、お前がいいよって言ってくれるまで、2度目は我慢するつもり。だからそれまでは他の所にさせて。」
「させてって…」
「俺にされるの嫌?」
「それは…」
嫌かどうかと聞かれると、嫌ではないけど…
「嫌じゃないならする。」
もう一度近づいて来る顔に、つい目を閉じる。
「…いいよ、って言ってくれないのか…?」
「え…」
目を開けるより早く、反対の瞼にもさっきと同じ感触。
「目閉じてくれたから、いいよって言ってくれるかと思って期待した。」
「あれは反射的に閉じただけでっ…」
顔が近づいてきたら、誰だって驚いて目閉じちゃうでしょ?
「はぁ…ごめん。なんか焦ってるな、俺。」
…篠塚君のこんな切羽詰まった顔、初めて見た。
「あの…」
「明日、また同じ時間に迎えに来るから。今日みたいに準備して待ってて。」
「…うん。」
「じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ…」
玄関が閉まると同時に、力が抜けて床に座り込む。
「ダメだ…まだドキドキしてる…」
私、篠塚君の事どう思ってるんだろう…
元々嫌いじゃないし、同期として尊敬もしてる。
じゃあ、異性としては…?
宏隆と別れた所だからって、篠塚君に甘えるように流されるのは嫌だけど。
こんなにドキドキするのは、何で…?
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