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三限目の授業が終わればお昼休み。
終業のチャイムが鳴った途端、まだ教師がいるにもかかわらず、生徒達が教室を飛び出して行く。学生寮には生徒用の炊事施設がない為、昼食は学生食堂でとるか購買で買うかのどちらかになるのだが、学生食堂は音楽科の生徒全員が入れる大きさではない為、早く行かないと席がなくなってしまうのだ。
「さーて、飯だ! 俺達も早く行こうぜ」
友貴が立ち上がると身体を伸ばした。美衣と龍太が頷いて立ち上がる。友貴が飛鳥の席を見ると、既に飛鳥はいなくなっていた。
「あれ、飛鳥は?」
「え? あれ? もういないの?」
美衣が周囲を見回す。龍太も周囲を見回すと首を傾げた。
「どこに行っちゃったんだろう」
「逃げやがったな。ったく少しは集団行動しろってんだ。あれで神社の娘かよ」
「ねえ、友貴。飛鳥って本当に神社の娘なの?」
美衣が首を傾げる。その横で龍太も不思議そうな顔を浮かべた。初等部時代から、この4人が遊ぶ時は校内がほとんどだった為、お互いの自宅まで行った事がないのだ。
「本当だよ。信用ねえな、俺は」
「そうじゃないよ。ほら、神社の人って争い事好きそうじゃないし…」
「飛鳥は巫女さんの格好は似合うだろうし、外見はそう見えるけど中身は別人だしね。イメージが狂うと言うか、なんて言えばいいかな…」
龍太と美衣が顔を見合わせる。友貴はため息を吐くと頭をかいた。
「まあな。飛鳥ん家、正確には『神社』じゃないらしいんだけどさ」
「何それー」
美衣が眉をひそめる。友貴は肩をすくめた。
「詳しい事はわかんねえけど… 新興宗教とか言ったかな」
「…なんか胡散臭い」
「美衣」
龍太が美衣を嗜める。友貴は苦笑すると、美衣の額を指で弾いた。
「あのなあ。近所の連中にとって、飛鳥ん家は格好の遊び場なんだぜ」
「ごめん」
「もういいだろ? 詳しくは飛鳥に直接聞いてくれ。俺はそれ以上わかんねえ」
友貴は軽く手を振ると、軽く背中を伸ばした。
「さて、飛鳥を捜しに行くか」
「いいよ。僕が捜す。友貴と美衣は食堂行ってて」
龍太が軽く手を振る。美衣は途端に満面の笑みを浮かべて、龍太の背中を軽く押した。
「いってらっしゃい! 早く行かないと、時間がなくなっちゃうよ」
「うん」
龍太は笑顔で頷くと、教室を駆け出して行った。
「おい、龍太!」
友貴が慌てて追いかけようとしたが、美衣がその腕を掴んだ。
「いいから! ご飯、食べにいこ」
「お、おう」
2人は教室を出ると学生食堂に向かった。階段を下りると、食堂に続く廊下は既に生徒達で溢れている。美衣はため息を吐くと友貴を見上げた。
「出遅れちゃったね」
「…購買行くか?」
「ううん。まだ時間あるもん」
美衣は首を振ると、ふと口元に手を当てた。
「あ、そうか… 飛鳥、購買で買ってたりして」
「かもな。龍太はどうする気なんだ?」
友貴が周囲を見回しながら呟く。美衣は満面の笑みを浮かべて友貴の肩を叩いた。
「大丈夫だよ。龍太、飛鳥の事好きだし」
「はあ? なんだよそれ」
「好きな子の為ならどんな事でも平気なの」
美衣が1人納得して頷いている。友貴は顔をしかめた。
「あのなあ。龍太はそんな事言ってねえだろ」
「言わなくたってわかるってば。友貴ってば鈍感」
「…恋愛話にしたいだけなんじゃねえの?」
友貴が横目で睨むと、美衣は頬を膨らませて友貴に向かって軽く舌を出した。
「女の子だもん。そういう話、大好きなの!」
「訳わかんねえ」
友貴は苦笑すると、美衣の額を指で弾いた。
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