1-1

1/1
前へ
/25ページ
次へ

1-1

 「……またげろ吐きそう」  麻美(まみ)がそう言ってベッドの外へ身を乗り出した。  わたしはすかさず、看護師さんから渡されたステンレスの器を差し出した。麻美はえずくけどももう吐く中身がなくなってしまっている。  わたしは麻美の背中を撫でてあげて、どさくさに紛れて頬にキスをした。  ──明日様子みて、よければ明後日退院じゃん。  「てか、麻酔から醒めたときに、(すず)のこと一瞬わからなかったのはヤバかったよな」  「健忘はよくある副作用みたいだし、平気よ」  麻美は、そうだけど、と言ってまたベッドに戻る。  くしゅくしゅした金髪──脱色したのではなく生まれつきの──猫のような赤い目、やっぱり麻美はかわいいな。  彼女は、PTSDの治療のため、電気痙攣療法(ECT)を受けた。  一昨日、最後の通電をして、昨日はほぼ全身麻酔で寝っぱなし、今日もかなり麻酔の副作用が続いている。  麻美とわたしが通っているのは、人外(にんがい)枠があることで有名な通称こと聖パルーシア女学院。  わたしは学生証にHumanと記載があるごくごく普通の人間だけど、麻美は違う。Coquette(コケット)と書かれている小悪魔。魔界から人間界へ来るルートはけっこうあるらしく、たいていが同じ小悪魔か、人間界の魔女、魔法使いに聖パルへ連絡をつけてもらって、それで転入ということになる。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加