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1-1
「……またげろ吐きそう」
麻美がそう言ってベッドの外へ身を乗り出した。
わたしはすかさず、看護師さんから渡されたステンレスの器を差し出した。麻美はえずくけどももう吐く中身がなくなってしまっている。
わたしは麻美の背中を撫でてあげて、どさくさに紛れて頬にキスをした。
──明日様子みて、よければ明後日退院じゃん。
「てか、麻酔から醒めたときに、鈴のこと一瞬わからなかったのはヤバかったよな」
「健忘はよくある副作用みたいだし、平気よ」
麻美は、そうだけど、と言ってまたベッドに戻る。
くしゅくしゅした金髪──脱色したのではなく生まれつきの──猫のような赤い目、やっぱり麻美はかわいいな。
彼女は、PTSDの治療のため、電気痙攣療法を受けた。
一昨日、最後の通電をして、昨日はほぼ全身麻酔で寝っぱなし、今日もかなり麻酔の副作用が続いている。
麻美とわたしが通っているのは、人外枠があることで有名な通称聖パルこと聖パルーシア女学院。
わたしは学生証にHumanと記載があるごくごく普通の人間だけど、麻美は違う。Coquetteと書かれている小悪魔。魔界から人間界へ来るルートはけっこうあるらしく、たいていが同じ小悪魔か、人間界の魔女、魔法使いに聖パルへ連絡をつけてもらって、それで転入ということになる。
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