8-2

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8-2

 全員がISSの出現する空域を見つめる。  長い長い五分が経過し、ISS〈きぼう〉がついに姿を現した。  飛行機よりはずっと速度がある。  麻美も騒ぐことなく、真剣に航行するISSを見つめている。  カメラのシャッター音だけが響いた。  ──あの中に人が乗っているんだ……わたしは呟いた。  だねえ、と麻美が感無量といった趣で応えてくれる。  二分弱だったか、永遠とも思える時間をかけて、ISSはまた闇へと消えていった。  その瞬間、全員の溜息が漏れる。  なんて表現すればいいんだろう、いや、表現する必要なんてないんだけど……。  人間、いや、ヒトって呼び方のほうがしっくりくる。(わに)の脳と大してかわりのない「攻撃性」をもった、野蛮で強欲でせせこましいヒト科のあさましさ。  チンパンジーと同じ、弱い者に強く強い者にはへつらうえげつなさ。  ボタン一つ押して核で地上ごと滅びる、最大規模の自殺と隣り合わせているヒト科の愚かしさ。  そうかもしれないけれど、やっぱりそれを乗り越えるだけの叡智(えいち)も持ち合わせているんだ。だから、地上四〇〇キロメートル上空を航行するそのニックネームが〈きぼう〉なんだろう……。
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