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8-5
聖パルを囲む森林より高く上がっているので、周囲の街並みも美しく見えた。M駅や電車の灯り、車のヘッドライト、日常の光なのにこんなにも尊く光っているなんて。
「鈴、ターンするからびっくりしないで」
え、うん。
麻美は身体を水泳のクイックターンのようにして復路につく。
一瞬めまぐるしくなる光と闇のラッシュに、脳が快感物質を分泌させる。
小悪魔が飛べる理由、そして飛べなくなったときの喪失感がわかる気がした。わたしは、ふとやはり飛ぶことに執念を燃やす登場人物がしばしば登場するJ・G・バラードの作品群を思い出していた。
麻美の横顔を見た。
真剣だけど、どこかに余裕が感じられる表情。
もう高等部棟に戻ってきた。
浅井さんと天文学部の小野木さんをはじめ全員が手を振っていた。
フェンスを超える前に、ホバリングして、麻美がお願いした。
「こうやって空中にいるところ、撮れますか?」
「大丈夫です。すぐレンズ替えますから」
麻美とわたしは空中に立っているような感じで停止している。
「鈴、空気が重力異常で流れないかもだから、口と鼻の前で手をくるくる回して。酸欠になっちゃう」
やっと、天文部の撮影班の人がレンズを替えた。
「撮りますよ……!」
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