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孤独の星
ニュージーランド、テカポの夜の中に、僕は居た。
此処は、"世界で一番 星空が美しい" といわれる場所だ。
その名にふさわしく、夜空を仰ぎ見れば、無数の星々が泰然と輝いていた。
しかし星々は互いに、何光年も離れていて、決して寄り添う事は無い。
光の速さをもってしても、何年もかかる空間において。今この瞬間、互いが存在しているかさえ、定かではない。
人は星座を紡ぎ出したが、それは所詮人の決めた概念に過ぎず、本来星とは孤独な物だーーと、思う。
互いに干渉しないその関係性を、ひとつひとつが個性として輝けるその存在を、羨ましく思った。
シュッとーー夜空に、青白い光が尾を引いた。
流れ星だ。
折しも今夜は、水瓶座η流星群の極大の日である。遠くの方で、僕と同じ旅行客の歓声が聴こえた。
僕は彼らから離れたところで、丘に寝転んでいる。牧歌的なのどかさを感じさせる、草の匂いがした。
目の前には満天の星空が広がる。
南半球はこの時期、冬に差し掛かる。澄んだ空気は、いささか薄着の僕から、体温を奪っていった。
このままだと風邪をひくかも知れない。
でもそれは、どうでも良い事だった。
遠くにいる旅行客の彼らと、僕と。恐らく決定的に違う点がある。
彼らは、此処に楽しみに来た。
僕は、此処に終わりを求めた。
帰りの航空券は、取っていない。必要無い。
僕は、人生の色々が嫌になって、此処に来たのだから。
(ああ……星になれたらな)
そう思う僕の目の前で、またひとつ、星が流れ落ちた。
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