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ある日の夕方、森の中を駆け抜ける6頭立ての大きな馬車がありました。
「ああ、いけない。もうこんな時間。もうすぐ王様が帰ってきてしまうわ。馬車を急がせてちょうだい!」
焦り気味に御者に声を掛けるのは、この国の王妃となった、元白雪姫です。
一緒に馬車に乗っている子供たちに向き合うと、8歳の姫は携帯電話から目を離さず、5歳の王子はポータブルゲームに夢中で、3歳の王子はずっとお菓子を食べています。
「私の子供たち、今日の宿題は終わったの?」
「まだー!」
王妃の問いかけに、顔も上げずに声を揃えて返事をする3人。
「だめじゃないの。小人たちに教えてもらいなさいって言ったでしょ?」
「だあって、小人たちは勉強が得意じゃないもの。教えてくれるのはお歌だけよ、ね?」
姫がそう言うと、3人で声を合わせて「ハイホー、ハイホー、ランラランランラン」と歌いだします。
「あら、懐かしい。じゃなくて。今日はお父様が帰ってくる日よ。ちゃんとお勉強の成果をお見せしないと」
「帰ったらやろうと思ったのに。お母様のお迎えが遅すぎるのよ」
生意気になってきた姫に痛い所をつかれて、王妃は口をつぐみました。
だって。今日はママ友とのランチ会と貴族婦人会のアフタヌーンティーが重なってしまったんだもの。アフタヌーンティーは私がスィーツ当番だったから朝からアップルパイを焼かなきゃいけなかったの。貴族婦人会の皆さんには「またこれ?」って顔をされたけど、しかたないじゃない、それしか作れないんだもの。大体王妃の私までお当番に入れるってどういうことなの?そこは免除してくれてもいいんじゃないの?姫と王子たちを森の小人に預けて、また迎えに行って。一日があっという間に過ぎてしまうわ。
はぁーっと深いため息をつくと、王妃の顔を覗き込んだ姫が言いました。
「アップルパイはワンパターンだって言ったでしょ。コックに頼めばいいのに」
「それはできないわ。自分で作るのがルールなの」
「そんなの守っているのお母様だけよ。従妹のルイーズが言ってたわ。おばさまはいつもお抱えのパティシエに作らせてるって」
「えっ!侯爵夫人が?!それで前回はあんなに豪華だったのね」
「何を出されたの?」
「シュークリームとマカロンのタワーよ。私が何度作っても失敗するシュークリームを3色のクリームで…とても美しくておいしくて。パティシエが作ったって知っていたらあんなに褒めちぎらなかったのに」
「お母様は正直すぎるのよ。昔だまされて毒リンゴを食べさせられたこと忘れたの?」
「えっ!あなたどこでそれを?」
「絵本で読んだの。有名なお話でしょ?あと、魔法の鏡が…」
まさかまさか。あのアンビリーバボーも真っ青な体験談が子供向けの絵本として出版されているなんて。一体だれが書いたの?著作権はどうなっているのかしら。
そんなことが気になって、姫の話は半分しか聞いていませんでした。
そうこうしているうちに、馬車はスイートホームパレスに到着します。
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