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馬車を出迎えた執事がうやうやしく手を差し伸べて言いました。
「おかえりなさいませ、王妃様」
「ただいま。王様はまだ?」
「はい、それが、今日はおもどりになれないそうです」
「え、なぜ?」
「なんでもあちらの国の王様に引き止められているとか。明日が良い天気だからとおっしゃって」
「またゴルフ?仕方ないわね」
王様は近隣諸国の視察と称して、たびたび国を留守にしていました。
「まだ子供が小さいのだから、少しは育児を手伝ってほしい」と王妃が言うと
「近隣諸国との付き合いは大事なんだよ。家族のためにも国民のためにも平和を維持しないと」なんて言いながら出かけて行ってしまうのです。
私にだって付き合いはあるのに。子供たちの面倒を見ながら、王様がいない日にはお客様をもてなしたり、大事な書類にサインをしたり、国司の手紙に返事を書いたり。やることがありすぎて寝不足なのよ。もういっそ一回ぐらい倒れてやろうかしら。
ちょっとイライラしながら王妃が自室に入ると、小間使いが二人がかりで大きな箱を運んできます。
「王妃様、ご実家から贈り物です」
「私の実家から?まさか」
「本当です。アマゾンプライムなので間違いありません」
「あら、ほんと。送料無料ならあの人かもしれないわ。開けてみて。あ、何か飛び出してくるかもしれないから、慎重にね」
王妃の実家は隣国ですが、父親の国王はすでに亡く、後妻の継母に苛め抜かれた幼少期を過ごしたのです。
この国に嫁いでからは一度も里帰りをしていません。お中元とお歳暮のやりとりしかしていない実家から、何が送られてきたのでしょう。小間使いたちは平たい大きな箱を床に置いて、ゆっくりフタを開けました。
中から出てきたのは、とても大きな鏡でした。
「王妃様、鏡です」
「そうね。普通の鏡よね」
小間使いが触っても大丈夫そうなので、ワードローブの隣の壁に掛けることにしました。
金箔の装飾で縁取られた、全身が映る大きな鏡ですが、王妃が前に立つと少し歪んで見えました。
「あら?この鏡、ちょっと横に膨れて見えない?」
王妃の問いかけに小間使いが鏡の前に立つと、なんともありません。王妃はすぐに納得しました。
「わかったわ。これはきっと私だけが醜く映る魔法の鏡なのよ。あの人がやりそうなことだわ」
そう言ってから、王妃様は思い出しました。
「ん?魔法の鏡?それってさっき姫が言っていたことかしら?ねぇちょっと、姫を呼んできてちょうだい。あの絵本を持ってきてと伝えてね」
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