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翌日、王妃は小間使いたちを部屋に呼び集めました。
「美しくなるためには、どうしたらいいのか教えてほしいの」
王妃様の言葉に青くなった小間使いたちは、口々に言いました。
「王妃様はお美しいです!」
「そうです!そのままで十分お綺麗です!」
「あーもう、そういうのいいから。お前たちを責めているわけじゃないの。ここ何年か忙しすぎて、自分で鏡を見ることもしなかったのよ。はっきり言って手を抜いていたの。肌や体型の変化に気がつかないほどね。だから教えて?」
王妃様がそう言うと、一番年上の小間使いが遠慮がちに言いました。
「あのぅ、王妃様が急にそんなことをおっしゃるのは、王様が帰ってこないからですか?」
「え?」
思ってもみなかったことを言われて、王妃は動揺しました。
「どうしてそう思うの?」
「今回視察なさっている国は…〇〇国ですよね?」
「それがどうかしたの?」
「私のようなものが言うことではないのですが…ご存じないようなので…」
「いいから、早くおっしゃい」
「はいっ。あの国の王様の妹君は、昔王様の許嫁でした」
「えっ!!」
「このパレスにも何度かいらしていますので、知っている者は大勢います。当時はまだ幼くてうちの王子様のことを『私の王子様』と言って抱きついたり、それを王子様が抱き上げたりなさって」
「待って。初耳なんだけど」
自分でも思ったより低い声が出て、王妃は戸惑いました。
抱きついたり?抱き上げたりですって?
「申し訳ございませんっ!余計なことを」
「いいえ、いいのよ。全部聞かせてくれる?」
「はい、あの、許嫁というのはあちらから言われたことで、年齢差もあり王様は本気にしてはいませんでした。あちらの姫も成人されたので、ただ今婚活中ということです」
成人したばかり?若っ!!
「それでその姫は、お美しいの?」
「王妃様とは違うタイプです!はちみつ色の長い巻き毛が愛らしいお姫様で…あ」
「そう。それはたいそう美しくなっていることでしょうね」
鏡に聞けば映して見せてくれるかもしれない。でも絶対に見たくないわ。
王様が帰ってこないのは、私が原因だったの?こんなくたびれた主婦になり下がった私よりも、若くてぴちぴちした金髪巻き毛にご執心なの?
落ち込んでしまった王妃を前に黙り込む小間使いたちでしたが、やがてその中で一番若いひとりが手を挙げて言いました。
「王妃様、私洗顔後に塗るハーブの化粧水なら知っています」
「え、ハーブ?」
「はいっ!とても良い香りがして、洗顔後でも肌がつっぱらないんです」
「そうなの。いいわね」
「お、王妃様、私は寝る前に顔に塗るクリームを手作りしています。しっとりして乾燥肌におすすめです」
「あ、私は祖母に教えてもらったハンドクリームを。水仕事をした後に塗ると手が荒れないんですよ」
「馬鹿ね、王妃様が水仕事しないでしょ。いや私たちがさせないわよ」
「あ、そうですよね、すみません」
「ううん、私もハンドクリーム試してみたいわ。他には何かあるかしら?」
王妃の問いかけに次々と答える小間使いたち。早速集まった情報に王妃はやる気をみなぎらせるのでした。
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