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三月がたち「王と王妃のロイヤルウェディング10周年記念スウィートテン舞踏会」まであと1週間。いよいよ勝負の日を迎えました。
「王妃さま、今日のメイクとお衣装はどうなさいますか?」
化粧係と衣装係が尋ねると、王妃はドレッサーの椅子から立ち上がります。
ブラッシングを終えた髪がつやつやと背中に流れました。
「このままいくわ」
「えっ?!王妃様?」
王妃はすっぴんのまま、部屋着の上に長いシルクのガウンを羽織った姿で、髪も結い上げずに鏡の前に立ちました。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだぁれ?」
暗くなった鏡面の向こうから、いつもとは少し違う声が聞こえます。
「おおっ…王妃様。世界で一番美しいのは、あなた様です」
鏡がそう言った瞬間、虹色に光った鏡面に映し出されたのは王妃の姿でした。
「なんて神々しい美しさでしょう。艶のある雪のような白い肌に、射干玉の髪。真の美しさの前には、宝石さえも輝きを失います。着飾る必要なんてないのです。あなたはその心根まで美しいのですから」
ありのままの姿で鏡に映る王妃に、あたたかい拍手の音が聞こえます。
「おめでとうございます、王妃様」
「王妃様、本当にお綺麗です」
王妃が振り返ると、小間使いのリーダーが少し涙ぐんでいます。
「みんな、ありがとう。それに私だけじゃないわ。みんなもとてもきれいよ」
三月の間王妃のケアに勤しんだ小間使いたちは、マッサージに使ったクリームやアロマオイルの効果で、全員輝くような肌をしていました。
「はい、王妃様のお陰で私たちも恩恵に預かることができました」
「素晴らしいわ。本当にありがとう。私は継母に勝ったのね」
「あー、そのことですが王妃様」
鏡が声を掛けました。
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