夏空

2/2
前へ
/9ページ
次へ
「綺麗だったねぇ。あの夜は」 窓からは白い日差しが降り注ぎ、 南部風鈴の澄んだ音色が声に重なる。 男は切り抜きを丁寧に畳んで棚へ戻した。 飾り棚の脇を通って、座椅子の前に佇む。 「よく言うよ。 あんな夜にまで、俺のこと振ったくせに」 年月を刻んだ顔に苦笑いを浮かべて、 颯太はおどけた恨み節を紡いだ。 我が物顔にくつろいで、 一華がひどく軽やかに笑った。 「私も最後だと思ったのよ。 それなら、君の言葉にいい加減な答え、 返せないじゃない」 数十年前に戻ったような声が弾ける。 夏空には光があふれ、 飛行機雲が白い線を引いていた。 おわり
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加