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「綺麗だったねぇ。あの夜は」
窓からは白い日差しが降り注ぎ、
南部風鈴の澄んだ音色が声に重なる。
男は切り抜きを丁寧に畳んで棚へ戻した。
飾り棚の脇を通って、座椅子の前に佇む。
「よく言うよ。
あんな夜にまで、俺のこと振ったくせに」
年月を刻んだ顔に苦笑いを浮かべて、
颯太はおどけた恨み節を紡いだ。
我が物顔にくつろいで、
一華がひどく軽やかに笑った。
「私も最後だと思ったのよ。
それなら、君の言葉にいい加減な答え、
返せないじゃない」
数十年前に戻ったような声が弾ける。
夏空には光があふれ、
飛行機雲が白い線を引いていた。
おわり
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