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「これはひどい」
「なんでよ」
「気があるってわかってる男をこんな夜に誘っといて。期待させてまた振った」
「勝手に期待されてもなぁ。
ていうか、これは気が変わるとかいう類のものじゃないから。その発言がまず失礼」
後輩を指導するかのように、
一華の声音が引き締まる。
にわかに出された生真面目な色に、颯太はしかしこれ以上ないほど言い慣れた調子に口を開いた。
「すみません」
「ほんとよ」
「でも本気で期待してた」
「ばか」
「うわー、それパワハラじゃないですか」
「だったら、こっちはセクハラ受けたっての」
「いや、俺の方が弱いから。相手は教育係だし」
「元、教育係ね」
足下の草が淡く揺れる。
会話の途切れた二人は再び夜景を見下ろした。
やがて、
一華の眼差しだけがおもむろに空へ昇ってゆく。
「──…私、さ」
無数の星へ語りかけるように、一華が声を紡いだ。
「君とのこういうやりとり、嫌じゃない」
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