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「でも、今はフリーだよね。
俺とここにいるくらいだし」
「…まぁね。
元々、恋多きってタイプでもないから」
「じゃあいいじゃん」
「何が」
「プロポーズ。受けてよ。
……これが最後だから」
二人の頭上に、白い光が尾を引いた。
飛行機雲に少し似て、しかしそれよりずっと速く、
はるかに明瞭な線が走る。
流れ星と呼ぶにはやや力強すぎるその線に、
一華が顔を持ち上げる。
「…来た」
「来たね」
「あれかな、ここに落ちるの」
「違うよ。あれはもっと遠く」
「パリとか」
「なんでパリ?」
「一度行きたいって思ってたんだ。
…もう無理だけど」
ひとつ、またひとつ。
星の瞬く空を短冊に裂いてゆくように、
二人の頭上から街並みの向こうへ光が流れる。
白い軌跡の所々で、火花に似た赤色が散る。
「笑っていいよ」
空を見上げ続ける一華へ、颯太は唐突に語を継いだ。吐き出すような声だった。
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