小さいおじさんをおいかけて

4/8
前へ
/9ページ
次へ
 山といえど、山道があるような本格的な山ではなく、蛇行する道路を歩けばそのまま頂上までいける。しかし、木々に囲まれた夜道は月や星の明かりを阻み、小さいおじさんの放つ微弱な光だけでは頼りなかった。それでも確信をもって足を運べるのは、体が幼い日の記憶を覚えていたからなのかもしれない。  父が私と遊んでくれた唯一の記憶がこの山だった。まだ幼かった私は、この小さな山を登りきるのに半日かかった。疲れたと駄々をこねる私を、父は「自分の力で歩け」と言って同じ場所に来るまでひたすら待っていた。  今の私なら小一時間もかからないと思うけど、それでも久々の坂道はしんどかった。  小さいおじさんは軽い足取りで飛ぶように走り、あっという間に見えなくなりそうになる。しかし、その後は私の到着を待つようにテクテクと歩くため、また距離が縮まる。そして近づけたかと思うとまた走る。 「もー、ちょっと待ってって」  返事はない。 「聞こえないの?」  返事はない。 「疲れた」  返事はない。  しかし、小さいおじさんは、トロトロと遅くなる私のペースに合わせるようにテクテクと歩いている。  私がその光を追いかけているのか、その光に導かれているのか、気付いたら頂上が近づいていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加