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山といえど、山道があるような本格的な山ではなく、蛇行する道路を歩けばそのまま頂上までいける。しかし、木々に囲まれた夜道は月や星の明かりを阻み、小さいおじさんの放つ微弱な光だけでは頼りなかった。それでも確信をもって足を運べるのは、体が幼い日の記憶を覚えていたからなのかもしれない。
父が私と遊んでくれた唯一の記憶がこの山だった。まだ幼かった私は、この小さな山を登りきるのに半日かかった。疲れたと駄々をこねる私を、父は「自分の力で歩け」と言って同じ場所に来るまでひたすら待っていた。
今の私なら小一時間もかからないと思うけど、それでも久々の坂道はしんどかった。
小さいおじさんは軽い足取りで飛ぶように走り、あっという間に見えなくなりそうになる。しかし、その後は私の到着を待つようにテクテクと歩くため、また距離が縮まる。そして近づけたかと思うとまた走る。
「もー、ちょっと待ってって」
返事はない。
「聞こえないの?」
返事はない。
「疲れた」
返事はない。
しかし、小さいおじさんは、トロトロと遅くなる私のペースに合わせるようにテクテクと歩いている。
私がその光を追いかけているのか、その光に導かれているのか、気付いたら頂上が近づいていた。
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