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頂上につくと、見晴らしの良い場所にベンチが置いてあった。
一一そうだ。ここから町の景色を眺められたんだよね。
小さいおじさんはそのベンチに座って、東の方角を向いている。私もさりげなく小さいおじさんの横に腰かけた。
小さいおじさんはもう走る様子もなく、手の届く範囲にいる。しかし、歩き疲れたのか、登頂したことへの満足感か、私からは捕まえようという気持ちがなくなっていた。
「懐かしいね」
と言って驚く。なぜ私はこんな言葉を言ったのだろうか。当然返事はない。
私はなぜか、隣に座る小さいおじさんに懐かしさを覚えていた。
小さいおじさんを初めて見たのは、父と最後の言葉を交わした一週間後だった。
夜中にガサゴソと音が聞こえて、その時私は父が戻ってきたと思って見に行った。しかし、そこにいたのは、父ではなく小さいおじさんだった。幼かった私は何気なしに話しかけようとしたが、走り去ってしまったため、そのまま寝てしまった。
この次の日、父の遺体が北アルプスの山で見つかったと警察から知らされ、母が泣いていたのを覚えている。
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