小さいおじさんをおいかけて

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 父は本格的な登山家だった。  自分にしか見ることのできない景色を目指して、毎週土日は山行へ行く。  金曜の夜中になると登山に必要な道具を用意して、一度全てリビングに並べ、装備に漏れがないか、動作に支障がないかチェックする。  このときと音がなっていた。  道具の数は30ほどもあり、その一つ一つに意味がある。その中には長いロープもあったから絶壁も登っていたのかもしれない。  そしてギアを丁寧にザックに入れていき、まだ暗い中、一人家から出ていくのだ。  父の頭の中には山しかなかったのだろう。  私には理解できなかった。  それは家族よりも、私よりも大事なことなのだろうか。  むかし母に尋ねたことがある。 「あんなお父さんのどこがいいの?」  母は言った。 「目がとても綺麗なのよ」  父は大好きなことに熱中する子供のような目をしていたらしい。  キラキラしていたようだ。
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