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穏やかな日常
甘い甘い殺し屋時代。
乾く前に新たな血で手が赤く染まる毎日。
そんな血生臭い毎日を送っていた私は偶然、町でまた彼に出会った。
なぜか私のことは全く覚えていなかったけどね。でも、そんなことは些細なこと。どうでも良かった。会えた喜びの方が、はるかに大きい。
もう二度とこの男を失いたくない。それだけ。
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この男と二人で幸せになりたい。初めての感情。だから私は、殺し屋を辞めた。全く未練はなかったし、彼さえいれば他に何もいらなかった。
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殺し屋を引退して二年。今は、ボロアパートで彼と二人で幸せに暮らしている。
初めてアルバイトにも挑戦し、毎日社員さんに注意されながらも何とか仕事を続けている。
昼休み。唯一の楽しみである彼の手作り弁当を公園のベンチに座り、食べていた。
その時、日陰から誰かの視線を感じた。
「隠れてないで出てきなよ。エム」
「…………どうして分かったん? 気配は消していたのに」
細い木の影から黒のワンピースを着た少女が姿を現した。
「引退しても勘はある程度働くし。それにエムの匂いがしたから」
「にッ!? 匂いって。そ、そ、そんなに臭い? お風呂入ったのに。えぇ、嘘。もう帰るッ!」
「いや、そういう嫌な匂いじゃなくて。何て言うか、どこか懐かして安心する匂い」
「………バカ」
なぜか上機嫌なエムは、ドカッと私の隣に座った。珍しそうに腕に抱かれた弁当箱を覗き込んでいる。
「卵焼き食べる? 美味しいよ」
「フンッ! そんなのいらないもん。カップ麺あるし」
いつの間にか、エムの手には小さなカップ麺が一つ。美味しそうな魚介の香りがした。腕時計で昼休みの残り時間を確認すると、急いでご飯を口に放り込んだ。
食事を終え、立ち上がった。
「やけに幸せそうだな……。ムカつく」
「うん、幸せだよ。またね、エム。これから仕事だからさ。遅れると怒られる」
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…………………。
……………。
一人だけになった公園に少女の悲しい声が響いた。
「ほんと……ムカつく」
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