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破壊
午後六時。やっと今日一日の仕事が終わった。正直、殺しの仕事よりキツいなぁと最近思い始めている。肩こりが半端ない。愚痴をこぼしながらの帰宅途中、偶然アパートの大家さんと商店街で会った。
「今、帰り? お疲れ様」
「はい。かなり疲れましたぁ」
「アッハッハ、だらしないねぇ。そんなに若いのに。もっとパワフルに生きなきゃダメだよ!」
「はい……。気を付けます」
大家と別れ、再び歩き出した私の耳を大家の独り言がノックした。
「部屋の電気が消えてたから、二人でデートかと思ったのに……」
!?
嫌な予感。胸騒ぎがした。
飛ぶように走り、アパートに帰る。
「ぁ……はぁ…」
確かに部屋の電気が消えている。こんなこと初めて。部屋に一歩入ると嗅いだことのない蜜の香りがした。
暗い部屋に知らない女がいる。気を失っている彼を抱いていた。
「彼を今すぐ離して」
黒スーツ姿の長身女は、こちらを見ても顔色一つ変えない。直感的に相手の強さが分かり、身構える。
「そこをどけ。邪魔だよ、お前」
「……………」
彼を傷つけないよう、周りの闇に紛れて相手の背後に回る。手刀で女の首をはねようとすると、人差し指だけで攻撃を防がれた。細く綺麗な指先。それなのに鋼鉄のような固さ。女は相変わらず、こちらを見もしない。
「ふぁあぁ~、眠っ」
感動的な強さ。殺し屋をやっていた時にもこんな奴はいなかった。
一瞬の動揺。それを見逃す相手ではなく、気づくと私は床と激しくキスをしていた。回し蹴り+腹を三発殴られた。
「ぐっ……」
奥歯と鼻骨。おまけに肋骨を二本折られた。止まらない鼻血。ダメージの残る体を無理やり動かし、何とか立ち上がった。
玄関前。気がついた彼が、ぼろ雑巾のような私を見ている。
「いか…ないで……」
「リサさん。さようなら。楽しかったです」
最後の力を振り絞り、相手に迫る。
勝算なんてない。それでもこの黒い衝動は、止まらない。女が投げた銀製のペンが十本以上飛んできて、体を穴だらけにされた。右目にも深く刺さった。
「ふ~ん。急所は、全部外してるな。こっちの人間にしては、良い反応してる」
二人が出ていく姿を見て、頬を血ではない、別の何かが流れているのを感じた。
こんなにアナタのこと大好きなのに。
それなのに守れなかった。
弱くて、ごめんね……。
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