誓い

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二日後、アイツは退院した。たった二日で完治するわけもなく、医者はもちろん反対した。でも何かを決意したアイツを止められなかった。一度決めたら、絶対に意思を曲げない面倒な性格。特に会話もなく、私が大嫌いだったリサとあの男が暮らしていた『愛の巣』に行ってみた。 久しぶりにボロアパートに帰ると、部屋の中には、まだ謎の女にボコボコにやられた時の痕跡がそこらじゅうに残っていた。アイツは、散らかった部屋を歩きながら何かを探している。 「どうした?」 「きっと、あるはずなんだ。手がかりが。彼は、私とは違ってバカではないから」 「ふ~ん。でも、もう諦めた方が良いと思うけどねぇ」 倒れたタンス。そのすぐ近くに写真立てがあった。周りのフレームは壊れていたが、中の写真は何とか無事で。私は、横から写真を盗み見した。 「これさ、二人で旅行した時の写真なんだ。最初で最後の旅行になっちゃったけど」 「あぁ、あの温泉地ね。温泉卵も最高に美味しかったよね~」 「えっ? なんで、エムが知ってるの?」 「いや…………。え? 何が。んっ……とぉ。ちょうどあの時、仕事だったんだ。同じ場所で」 「そうなんだ。たぶん、この辺りにあると思うんだけど……………。あったっ!!」 写真の裏側に小さい字で住所が記載されている。目が見えない彼が残したラストメッセージ。 私達は、その住所が書かれた場所に行った。 …………………………………………。 …………………………。 ………………。 貸倉庫の一つ。その中にエムと二人で入る。中はマネキンとか、使わなくなった巨大な水槽とか、そういうゴミで溢れていた。倉庫の一番奥。人一人がやっと通れるぐらいの穴が床に不自然に空いていて、そこから微かに冷たい風が吹いていた。穴の中は、真っ暗で先が見えない。 「きっと、この中にいる」 「どうして分かるんだよ。ヤバさしかないよ。この穴、地獄まで続いてるんじゃない?」 私は、躊躇わず中に入った。穴に入ると体が勝手に向こう側から引き寄せられる。それでも不安は全くなかった。しばらく、身を任せる。 数分後、私は知らない場所に立っていた。小高い丘。少し先にポツポツと外国風の建物が見える。さらにそのずっと先。第二の太陽のように眩しく光る白亜の城があった。 「ハハッ」 空を見て、笑いが込み上げた。 【 空に月らしきものが、大小三つもある 】 明らかに地球とは違う場所。漫画で言うところの異世界? 確か、こんな感じ。 拳を握りしめ、自分の今の力を正確に把握した。まだまだ謎の女には、到底敵わない。ただ、近いうちに必ず奴は倒す。 町らしき場所に行くと、派手な民族衣装を着た町人に会った。 「あっ………。こんにちは」 「あぁ、はいはい。こんにちは~」 明らかにこことは違う場所から来た怪しい輩。それでも受け入れてくれる。町全体の大らかな雰囲気が心地良い。 少し小腹がすいたので、先ほどから良い香りを放っていた食堂に入った。メニューを見ても異国の言葉で読めない。可愛いリボンを着けた猫耳? の看板娘にオススメを持ってきてもらうことにした。 しっぽまである。コスプレではないみたい。 「なぁに、女の尻を見てんだよ。やらしいわぁ」 私の前にドカッとエムが座った。 「早かったね。やっぱり、ここって異世界なのかな。スゴいよね、漫画の中に入ったみたい」 「そんな呑気なこと言ってて良いの? お前、この世界の金を持ってないだろ。食い逃げする気かよ。情けない」 そういえば、今は日本円とカードしか持ってない。 エムを見ると、この世界の紙幣らしきものの札束で顔を扇いでいた。 「それ、どうしたの? 盗んだ?」 「お前と一緒にするな。腕時計を換金したんだ。さっき、質屋で。そしたら、この五万ルックになった~」 「やることが早い。さっすが、エム」 「もっと誉めて~」 ビーフシチューのような食べ物とパンで腹が膨れた私達は、会計を済ませようとレジに行く。 「あの……、お客さん。冗談は、やめて下さい。会計は、三十万ルックですよ」 顔を見合せ。 そして。 二人で土下座しました。
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