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異世界④
謎の女と二人で歩いていると、たくさんの町人が集まってきた。握手を求めたり、涙を流しながら拝む年寄りもいた。
この女は人気者と言うより、英雄に近い存在らしい。
「この先に会員制の飲み屋がある。そこで話そう」
そう言うと同時、女は風になった。羽根のように体が軽く、重力を感じさせない特殊な走り。
速いなんてもんじゃない。
姿を見失うと女の残り香だけを頼りに全神経を集中して私も後を追った。
「遅いっ! 時間を無駄にするな」
「はぁ……はぁ……ぁ」
化け物か、コイツ。息切れすらしていない。
店先に小さな妖精が三匹飛び回っていた。私達を品定めしている。女は、無視して店の中に入った。店内は、コンサートホール並の広さがあり。外からは想像出来ない客の多さと活気に満ちている。
「違和感あるだろ? この広さ。これは、魔法の一種。この世界には、お前達のいる世界とは違って、魔法を扱える奴等がいるんだ。この店の主もそう。みんな隠れて、こうやって生きてる」
「隠れて?」
「あぁ……。この国では、王の命令で魔法が全面的に禁止されてるから。まぁ、こんなくだらない話はこれくらいにしよう。ここからが、本題だ」
「…………………」
「お前と一緒にいた男だが、実はこっち側の世界の住人なんだよ。男は、あの穴から逃げた。お前も知っての通り、あの穴はこっちの世界とお前達の世界を繋いでいる」
「彼は、どうして逃げたの?」
「奴隷としての生活に耐えられなかったからだろう」
「っ!?」
「奴は、身売りされた奴隷だ。最底辺の人間。家畜同然の生活。まぁ今は、俺の指示で城で働いているが……。一生こき使われても借金は完済出来ないだろうな」
「………助けるよ。私が」
黒い感情が体を支配する。
「無理無理。その前に、お前は死ぬから。あの時はかなり手加減してやったが、次は本気で殺る。………でも、そんなお前にも奴を救うチャンスがない訳じゃない。それが、これから話す俺との取引だ」
「…………」
「実は、奴以外にも厄介な奴が向こうの世界に何人も逃げててな。しかも、そいつらの体には高額の値段がつけられてる。目玉一つだけでも欲しいって言う物好きもいるぐらいだ。お前は奴らを捕らえ、俺に売り、奴の借金を返済してもらう。借金を完済出来たら、無傷で返してやる。どうだ? かなり厳しい条件だが、不可能ではないはず。あっ、一つ言っておくが、向こうの通貨や物品はこっちではゴミと変わらないからな。換金は一切出来ないと思え」
「…………分かった。やるよ」
「いい判断だ。もし断っていたら、この場で殺していた」
「期限は?」
「あの穴が閉じるまで。閉じたらゲームオーバー。いつ閉じるかは、俺含め誰にも分からない」
………………………。
………………。
…………。
女が消えた店内で、一口も飲んでいなかったミルクをイッキ飲みした。
やるよ。
そして必ず、彼を取り戻す。
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