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和彦(かずひこ)。別れて欲しいの」 「……は?」  夜景の綺麗なレストラン。12本の薔薇(ダズンローズ)も、手配した。あとは、指輪を渡すだけ。  そんなタイミングで、いきなり切り出された話が……別れ話(コレ)。 「………どういう、ことだ」  混乱のあまり声が震える。 「あなたが通関部で頑張ってるのは知ってる。だけど……会社とプライベートでの顔があまりにも違いすぎる。裏表がある人……私、苦手なの」  確かに、夏子(なつこ)の前で。田邉課長(上司)の愚痴を話したことは数えきれない。  けれど。それは社会人として、極普通のことではないのだろうか。 「それにね……最近、仕事優先でなかなか会ってくれなかったじゃない。そんな人と結婚しても……家庭を顧みてくれない気がするの」  仕事優先。それは、今日、こうしてプロポーズする時間を作るために、頑張ってきていたことであって。  お前のためだ、と。すぐに返答すればよかったのに。喉が凍りついて、声が出ない。 「ごめんなさい。あなたと一緒に将来を歩んでいくことは、出来ない」  カタリ、と音がして。夏子が席を立った。カツカツとヒールの音が響いて。夏子の背中が、消えていった。
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