モドキ

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 金を受け取った女は、それを胸の谷間に挟み込むと。慣れた手付きで俺のズボンと下着を降ろし、その手をむき出しになった俺の股間に摺り寄せた。が、その時女の手が止まった。しばらく、俺の裸の太腿をさすった後。暗がりの中、俺の顔をじっと見つめて、その女は言った。 「あなた、もしかして……?」  それで、俺も気がついた。そうだ……彼女も、「モドキ」なんだ。見かけは同じでも、こうやって肌を接するとわかるのだろう。そして彼女のように、なまじ他人の肌と触れ合う機会が多かったりすると、特に……。 「君も、かい……?」  俺はぼそっと彼女に聞いた。彼女は、こくりとただ頷いた。それだけで、その隠された想いは俺に伝わった。 「モドキ」の女性は、「ヤツら」に比べると、繁殖能力が低いのだ。平たく言えば、妊娠する確率が低いということだ。だから、こうやって本番までする場末の風俗で、モドキの女が大勢働かされている……そういうウワサを聞いたことがあった。その現実を目の前にして、これまで彼女が「モドキ」として味わって来ただろう苦難と恥辱を思い、俺は胸が痛くなった。  俺のように、能力に恵まれた男はまだいい方なのだ。彼女のように、モドキというだけで周りから蔑まれ、そしてこんな風にしなければ生きる糧を得られない仲間もいるんだ……! 俺と彼女は暗がりの中で、そのまましばらく沈黙していた。やがてその沈黙を破り、彼女が、切なくなるくらいに「明るい声」で、俺に言った。 「同じ『モドキ』だもんね。お客さんには、思いっきりサービスしちゃおうかなあ?」  ……その時、俺の中で、何かが弾けた。
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