モドキ

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 ターーン……!  その時、俺の後で、小さい爆発音のようなものが響いた。一瞬何が起きたのかわからなかったが、すぐにそれが銃声だったのだと気付いた。しかし、そう気付いた時には、俺はその銃声によって打ち抜かれたタイヤを、コントロールすることが出来なくなっていた。  ハンドルは急にぐにゃぐにゃになってしまったかのように手ごたえを失い、そして俺の目の前に、さっきまでタイヤが踏みしめていたはずの道路が迫って来た。俺が思わず目をつぶったのと同時に、背中にしがみついていたはずの彼女のぬくもりが失われ、代わりに激しい衝撃が俺の全身を包みこんだ……。 「無茶な運転しやがって、モドキのくせに……!」  道路の上でひしゃげたバイクの傍らで、ベテランの警官が呟いた。 「こいつ、バイクを盗む前にも、酒場でひと悶着起こしてたようですね。ケガをした客がモドキにやられたとわめき散らしてるって通報が、病院からありました」  ベテランの脇に立っていた若い警官が、メモを見ながら言った。 「何を考えてたんだか……」  ベテランの呟きに、若い警官が、若いうちにはありがちな物知り顔で答えた。 「でも最近、こういうモドキのやつらの犯罪が多いみたいですね? なんか鬱憤が溜まってるんですかね、こいつらの間では」  その若い警官の言葉に、ベテラン警官の目つきが、きっと鋭くなった。 「お前は若いからわからんかもしれんがな。今の状態が当たり前だと思っている、お前には」
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