モドキ

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 もちろん、俺達「モドキ」も、やつらと同じ生活をし、ちゃんと仕事にも就いているのだから、俺達を差別するようなその言葉は、法律では禁じられている。しかし、普段の日常に於いては、そんな法律などないに等しい。  昔、黒人をニガーと言ったり、日本人をジャップと呼んだりすることが、伝えられるメディアの中だけで禁じられ、日常生活では相も変わらず溢れかえっていたように。俺達を、「モドキ」と呼ぶ事に、罪の意識を感じる者などいないだろう。ましてや、こんなカオスに満ちた路地裏の店では……。 「んで、モドキのあんちゃんが、こんな店になんの用があるってんだ?」  初老の男は、俺の方を見もせず。中年女に語りかけるように、そして蔑んだような口調でそう言った。明らかに、俺達「モドキ」を嫌っている口調だった。 「そんないい服着やがってよぉ、わざわざ俺達に見せびらかしに来たのかよ?」  その言葉に、中年女が下品極まりない声で「がははははは」と笑った。ボックス席にいた男達も、その笑い声を聞き、「事情」を悟ったようだった。そして俺は、この薄汚い路地裏の店で、あっという間に孤立した。 「こういう店に来て、ビールなんざ飲んでるのは、さぞ気持ちがいいんだろうよ!」  初老の男の声に、ボックス席の男達も応える。 「ああ、そうに決まってるさ! あんたらは、俺達のおかげで生きてけるんだ、くらい思っていやがんのさ!」  俺は相変わらず俯きながら、黙ってビールを飲み続けていた。味などもうわからなかった。予想した通り、普段の日常では表に出てこない、隠されたヤツらの「本音」が、この店ではここぞとばかりに、思いっきりブチまけられていた。
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