モドキ

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 ビール瓶を震える手で掴み、そう言った男の行動を、誰も止めなかった。俺はそれでもまだ笑い続けていたが、面白半分のように、ビール瓶を持った男を、ばーーん! と片足で蹴飛ばした。予期していなかったその蹴りに、そいつはあっけなく店の床にひっくり返った。 「やりやがったな、てめえ!」  それを見て、ボックス席のもう一人の男が、猛然と俺に飛び掛ってきた。俺は反射的に、そいつの腕を掴み、ぎりり! とねじ上げた。  ぼきぃ!   ……そいつの肘が、ぞっとするような鈍い音をあげた。 「うわああああ!」  しまった……! 俺がそう思ってそいつの手を放すと。その手はまるでおもちゃのように、そいつの体から力なく垂れ下がった。しまった、やっちまった……。俺達の身体組織は、「ヤツら」に比べると、かなり頑丈に出来ているのだ。俺もすっかり常軌を失って、力任せに腕をねじ上げてしまった。 「てめえ!」「この野郎!!」  残りの男達、そして初老の男までもが、俺に向かって襲い掛かってきた。中年女に至っては、カウンターの下から出刃包丁を取り出そうとしていた。これはさすがにまずいと、ちょっと正気を失いつつあった俺の頭も考え始めた。俺は咄嗟にカウンターに飛び乗ると、飛び掛ってきた男の顎にケリを食らわせた。 「ぐえええっ!」  それほど思いっきり蹴ったわけではなかったが、そいつはのけぞったままボックス席まで飛んでいった。
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