モドキ

8/17
前へ
/17ページ
次へ
「くっそう!」「ふざけんなよ!」  確かに俺は孤立無援ではあったが、それでも俺が唯一有利だったのは、襲い掛かってくるこいつらのように酩酊はしていなかったことだった。目を血走らせて飛び掛ってくるヤツらは鬼気迫ってはいたが、その狙いは必ずしも正確とは言えなかった。俺はカウンターから誰もいないボックス席に飛び移り、そしてそのテーブルをひっくり返し。ヤツらが一瞬目標を見失った隙に、なんとか店の扉から路地裏へと転がり出た。  店のドアを、路地に積まれていた木箱で、外側から急いで塞ぎ。ガンガンガン! とドアを叩く音と、「てめえ、覚えてろよ!」という怒号がドア越しに聞こえるのを背中に感じつつ、俺は店を後にした。  そして俺は、再び笑いが込み上げてくるのを必死に抑えていた。全く馬鹿げてやがる、何もかも……! そう思うと、ドアの前に立ち尽くして永遠に笑い続けたい気分だったが。あんな半分腐りかけたような木箱で塞いだところで、きっとすぐに破られるだろう。あの店のヤツらに捕まったら、何をされるかわかったもんじゃない。俺はどこか隠れ場所を探そうと、相変わらず大声で笑い出しそうになるのを抑えながら、路地の更に奥へと入っていった。  細く暗く、そして腐臭漂う路地を進んでいくと、いかにも危なそうな風俗店の看板があった。その場違いなまでにケバケバしい看板の色使いは、逆に何か物悲しさを感じさせた。どうせ堕ちるなら、とことんまで……そう思った俺は、普段なら近寄りもしないだろう、その店のドアを開いた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加