モドキ

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 店内は薄暗く、店の真ん中に位置したテーブルには誰もおらず。どうやら壁際に、申し訳程度に区切りをつけた個室があり、そこで客達がそれぞれ思い思いに、店の女とよろしくやっているようだった。この状態では、ぱっと見客の顔を判別する事など出来やしない。少しの間身を隠すにはちょうどいいかもな、と俺は考えた。  受付もすりガラスで覆われ、客の顔は見えない仕組みになっている。好都合だ。俺は受付で金を払い、開いている個室に入り、何かところどころベトついているソファに腰を降ろした。狭い個室の両側にある、薄っぺらい壁の向こうから、わざとらしい女の喘ぎ声が響いていた。  少しすると、一人の女が俺のいる個室に入ってきた。店内のか細い灯りでは、その女の顔はよく見えなかったが。赤い色の艶かしい下着にほとんどシースルーの薄絹をまとっただけの彼女は、考えていたよりずっと若い感じがした。 「お客さん、ここは初めて……?」  彼女の言葉に、俺は無言で頷いた。 「そう。手でするだけ、口でするだけ、どちらか選んでね。本番がしたいなら、もっと割り増しになるけど……」  呆れたことに、この薄い壁で仕切られた個室の中で、本番までOKらしい。俺はそんなことを平気で口にする彼女がちょっと痛々しくなったが、とりあえず手ごろな値段の「手でする」を選んだ。もちろん今はとてもそんな気分ではなかったが、ここで変に断って怪しまれても具合が悪い。それに、それでいくらか時間は潰せるだろう。
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