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1.憧れの演劇部がない!?
澄み渡る青空にピンクの花びらがゆらゆらと揺れている。心地いい春の風になびく髪を耳の後ろにかけて胸いっぱいに空気を吸い込む。わたし、鈴音花澄は憧れだった空ノ音学園の生徒になった。入学式日和の青空の下、まだ着なれない制服にぎこちない気持ちを包んで、期待に胸をふくらませて真っ白なアーチをくぐり、学園の敷地内に足を踏み入れる。
わたしが入学した空ノ音学園は、生徒主体にのびのびと個性と好きを育てる学校として人気の学校。個性や好きなものを大切にしてくれる学校だけあって、特に芸術面に力を入れている。美術、音楽、演劇にと生徒会主催の行事も活発的に行われている。だからやりたいことも、得意なこともないわたしには夢のような学校だった。そしてあの日、わたしは運命的な出会いをする。
将来の夢は?と聞かれると、お花屋さんやパティシエなんていっていたのは小さな頃までで、中学生になると本格的に自分はなにをしたいのか、なにが向いているのか、将来のことを考えなさいといわれて、高校はその第一歩として慎重に決めなさいといわれる。スポーツが得意な子はスポーツの強い学校を目指し、大学にいきたい子、将来的に目指す職業がある子は得意分野をいかした学校を選ぶ。
でもわたしはやりたいことも、なりたいものもなかった。ただ出来れば大学に行って、出来なかったら働くのかな?ってばく然としたイメージしかなかった。一体中学生でどれくらいの子が絶対将来はこうしたいという目標を持っているんだろう?自分のことなのにどこか他人事のようで、ただ周りに合わせてみんなと同じようにしていればどこかわたしでも入れる高校があるんじゃないかと思っていた。だからいくつも学校見学にいってもどこか現実的ではなくて、自分自身がわからなくなりかけたときに、なんとなく人気のあった空ノ音学園の学園祭に行った。
芸術面で人気の学校だからわたしとは無縁に思えたから、気分転換にもなるし、ただなにも考えずに楽しもうという軽い気持ちで行ったのに、学園祭の舞台でわたしは忘れることができない出会いをした。
校庭にはたくさんのお店と人、プラカードを持って自分のクラスの宣伝をしている人でにぎわっていた。おいしそうなお店が並ぶテントをキョロキョロと見ていたら、体育館に吸い込まれるように人の流れができていた。わたしもその波に流されるように体育館へ足を踏み入れる。真っ暗な体育館の中、ライトが舞台を照らす。ちょうど演劇部の舞台が始まるところだった。
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