1.憧れの演劇部がない!?

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それからというもの杏也(きょうや)先輩を見つけると、いつの間にか目が勝手に杏也先輩を追っていることに気づいて自分でもひどく動揺する。今だって掃除当番の手を止めて窓の外を見下ろしていた。そこには校内の見回りをしているのか、キョロキョロと首を動かしながら中庭を歩いている杏也先輩がいる。いくら演劇部復活のためには杏也先輩が重要だとしても、気づいたら目で追って観察している自分にただ驚くばかりだ。 「演劇部のため……なんだよね?」 ぽつりと独り言を呟いてため息をつく。よくよく見ていると、無表情で冷めたように見える杏也先輩が実はコロコロと表情を変えるときがあると知った。拓梅(たくみ)先輩に毒づきながらも柔らかい表情をしたり、お弁当が好きなメニューだったのか小さくガッツポーズしたり。みんながいうように真面目で厳しくて冷たい人なんて程遠い顔をするときもある。 「本当はアイス先輩じゃないんじゃないかな?」 「本人にバレてたりして」 「えっ?」 考え事をしている横から凪彩(なぎさ)ちゃんの声がして我に返る。 「いくら演劇部のためでもやりすぎじゃない?本人も気づいているかもよ」 「そうだよね……ちょっとやりすぎだよね」 凪彩ちゃんの視線から逃げるように目を反らした先で、歩く足を止めて立ち止まる杏也先輩と目が合った気がして、慌ててしゃがんで隠れる。 「なにやってんの?」 「反射的に隠れちゃった」 絶対に目が合った気がする。どうしょう……本当にバレているかもと、ドキドキと心臓の音が身体中に響いている。 「それで?作戦は考えたの?杏也先輩を相手にするならしっかりと準備しないと勝てないよ」 「そうだよね。なにも考えてなかった」 「そんなんで大丈夫なの?」 「う……ん」 正直勝てる気がしない。だからあいまいな返事をしてしまう。杏也先輩を知れば知るほど完ぺきで頭のいい人だと思えるから言葉で勝てる気がしなかった。ほうきのえに額を当ててうなだれていると、クラスの子の口から「アイス先輩?」という言葉がもれて顔を上げる。 「1年B組、鈴音花澄(すずねかすみ)さん」 「は、い」
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