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10.それぞれの思い。演劇部がひとつになっていく
今日1日でいろんなことが起きすぎて、まだ心臓がドキドキとしている。明日は演劇部にとって重要な1日になりそうだから早く寝たいのに、ぜんぜん眠くない。むしろ踊り出したくなるくらい気持ちが爆発しそう。
いつもわたしにあきれたようにため息ばかりつくし、お説教は長いし、ストレートに物事をいうから冷たいって思うときもあるけど、それを上回るくらいあまやかしモードの杏也先輩はやさしくて甘いからいつもわたしをドキドキさせる。本当にずるいよ。杏也先輩みたいな人をツンデレっていうんだよね?好きな人がいるなら勘違いさせないで欲しいのに……でもあまやかしモードの杏也先輩をもっと見たいって思っちゃうから複雑だな。
お気に入りのうさぎの抱き枕をぎゅっと抱きしめながらゴロゴロとベッドの上で寝返りをうつ。
「うさぎ……小動物……わたし?」
なにいってんのわたし……もぅ!こんなに胸がざわざわしてくすぐったくなるのは、杏也先輩のせいなんだから。
「もぅ……!」
無自覚にわたしがうれしくなったり、はずかしくなるような言葉をさらっといっちゃうし、無表情でクールで大人な杏也先輩が照れながらも微笑むとか、もう普段のイメージからは想像がつかないからそのギャップが本当にずるい。
「もうこれ以上……好きになりたくないよ」
胸の奥にかぎをかけて閉まったはずの気持ちが今にもたくさんあふれだしそうだよ。でも杏也先輩にはバレたくない。バレちゃったら……今みたいに構ってくれなくなりそうだし、さけられちゃうかも。そんなのいやだ。杏也先輩のそばにいられるなら、気にかけてもらえる危なっかしい後輩のままでいい。自分の気持ちに嘘をついてまで嘘つきな自分を演じるって難しいな。でも……きっとうまく演じてみせるから。
結局、寝不足のまま朝を迎えてしまった。
あまり寝ていないのに、妙に頭と目がさえている。今のわたしは無敵なんじゃない?なんて勘違いするほど変なテンションに自分でも戸惑う。
ホームに入ってくる電車をまばたきもせずに1両ずつ確認する。杏也先輩が乗っていないか無意識にその姿を探してしまう。いるはずもないのにねと、あきれたように笑みをこぼしながら電車に乗りこむ。学校の最寄りの駅に降りると、昨日のことを思いだしていた。あれはもしかしてわたしの夢だったのかな?と錯覚におちいるけど、アスファルトに反射した熱がじりじりとわたしをこがすから、あれは昨日起きた本当の出来事だったのだと教えられている気がした。
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