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和やかな雰囲気のなか、土田さんだけは居心地悪そうにうつ向いている。
「土田さんは?理由聞いてもいいかな?」
「わたしは……」
顔を上げると、微かに笑みを浮かべながら土田さんがつぶやく。
「おばあちゃんに笑ってほしいから」
「おばあちゃん、大好きだもんね」
「たったひとりの家族だから」
「えっ?そうなの」
土田さんの家族構成を聞いたことがなかったから、おばあちゃんと土田さんのふたり家族だったなんて知らなかった。
「小さい頃は両親がいないなんていえなくて、お父さんは外国で仕事をして、おばあちゃんがお母さんなんて嘘ついてた。それでもみんなにおばあちゃんでしょってバレてたけど。それを見ておばあちゃんが少しでも元気に、若く見えるようにっていつも無理してた……だからわたしのせいでおばあちゃんは病気になっちゃったんだと思う」
「そんなことないよ。病気をしない人なんていないだろうし、誰かのせいで病気になるなんてないよ。だから自分を責めないで」
土田さんが抱えていた不安や悩みは、演劇部のこと以外にもあったらしい。でもいつもの土田さんの様子からは想像できなかったから、気づくことが出来なかった。これ以上どう話しをすればいいかわからずに押し黙っていると、土田さんがずっと抱えていた悩みをはきだすようにゆっくりと話し始める。
「おばあちゃんの楽しみは観劇だったの。だから病気になって観に行けなくなったおばあちゃんを少しでもわたしが元気付けたいって思って演劇を始めたの……なのに舞台に立つのが怖いなんて、情けないよね」
土田さんは入部オーディション以来、観客席の視線が、自分をあざらわうように見えて怖くなったといっていた。それなら土田さんに向けられる視線を温かなものに変えたい。それなら方法はこれしかないはず。
「それなら……おばあちゃんにも学園祭での土田さんの演技を観てもらおう」
「でもおばあちゃんには学校に来るだけの体力すらないの」
「大丈夫!生徒会にお願いしておばあちゃんの元に繋いでもらおう。観てもらう方法ならたくさんあるよ。おばあちゃんに見守ってもらおう」
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