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苦笑いしながら杏也先輩を見上げていると、感情の読めない顔の杏也先輩と目が合う。とたんに昨日の出来事がよみがえってきて、恥ずかしさのあまり顔の回りが熱くなっていく。視線にたえられなくなってそらすけど、心臓の音はどんどんと大きくなっていく。
「あっ、暑い日はアイス、食べたくなりますよね。うっうれしいな。いただきます」
自分の世話しなく鳴り響く音をごまかすように言葉を続けた。いただきますというわたしの言葉を聞いて、演劇部のみんなもわたしの周りに集まる。
「どうぞ、どうぞ。このアイスはオレ達のお兄ちゃんのみおにぃのお店の新作なんだ。だから食べたら感想を聞かせてくれたらうれしいな」
那砂先輩達のお兄さんってことは空ノ音学園の先輩でもなるし、奥さんは演劇部を作り、わたし達が学園祭で披露する『空ノ音の先に夢がある』の物語を考えてくれた人だよね。不思議な縁を感じずにはいられないな。そうして受け継ぐもの、これからもずっと受け継ぎたいものがあるってなんだかすてきだよね。
そんなことを思っているわたしとは反対に、やっぱりアイス先輩のイメージがある杏也先輩にみんながおびえているのか、差し出されたアイスを取るのにみんながちゅうちょしているみたい。
「うわぁ~カップもかわいいですね。味はなにがあるんですか?」
みんなの前に出て杏也先輩に質問するけど、目を見ることが出来なくてアイスをじっと見つめる。
「バニラとチョコ、それにストロベリーです」
杏也先輩のストロベリーという言葉に反応して思わず顔を上げて杏也先輩を見ると、目を細めながらおかしそうに笑うから、ドキッと心臓が音をたてる。
「えっ……なに、杏也が笑うとか怖いんだけど」
「鳥肌たった」と腕を拓梅先輩に見せながら汐里先輩が体を震わせている。
「いえ、昨日の帰りにストロベリーの匂いがする小動物が私に構ってほしそうにしていたのをつい思いだしてしまって」
「なにそれ?」っていいながら拓梅先輩は笑っているけど、わたしは笑えないよ。完全に杏也先輩にからかわれてる。それにしても性格悪い!わたしなんてドキドキしすぎて寝不足なのに。今だって昨日のことを思いだしてドキドキしているのに……杏也先輩は余裕たっぷりって顔をしているから悔しいよ。でも微笑んでいる杏也先輩を見ると、怒りたくなる気持ちがどっかにいっちゃう。この顔が見れるならいいやって許してしまう。
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