10.それぞれの思い。演劇部がひとつになっていく

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演劇部のみんなが味を選ぶと、「どうぞ」といいながら拓梅(たくみ)先輩が手渡ししてくれるからみんなうれしそうにしているけど、わたしだけが気づいている。その光景を見つめる汐里(しおり)先輩の目が怖い。本当に拓梅先輩のこと好きって気持ちがたくさんもれているのに、どうして拓梅先輩は気づかないんだろう。もしかして意外と気づいているのに気づかないふりしてる?杏也(きょうや)先輩に気を使っているとか? 頭の中で勝手に妄想をふくらませながら杏也先輩をチラッて見ると、微かに笑いながら杏也先輩が口を開く。 「あなたはストロベリー、ですよね?」 「は……い。ありがとうございます」 直接杏也先輩からストロベリー味のアイスクリームを受け取ると、ふっと杏也先輩が笑う。悔しい!あなたのことはなんでもお見通しですよ。みたいな杏也先輩のドヤ顔に一瞬ムッとするけど、口をへらっとしてにやけそうになるのは、わたしのことをちゃんと見てくれて、理解してくれているのかもってうれしくなっちゃうから。 それは、わたしが杏也先輩のことが好きだから。いつもわたしだけが杏也先輩からドキドキさせられっぱなしで、なんだか不公平に感じる。それが片想いっていうのかな?そう考えた瞬間、ずっしりと心が重くなる。ストロベリー味のアイスクリームに今すぐにわたしの想いを冷ましてもらって、溶けてなくなればいいのにって思っちゃう。ひんやりとする手元からの冷たさがやけに痛くて、指先の感覚がなくなっていくみたい。 「それじゃ。練習頑張ってね。おじゃましました」 「ありがとうございます。ごちそうさまでした」 「義姉さんに演劇部のこと伝えたら喜んでいました。観に来るそうです。だから頑張ってください」 わたし達の舞台を観に来てくれるんだ。うれしくて演劇部のみんなで顔を合わせていると、草野さんがわたしになにかを目でうったえている。でもそれがなにかわからなくて首を傾げていると、「今が頼むチャンスだよ」といわれて、慌てて部室を出ていこうとする生徒会の人達を呼び止める。 「あの……みなさんにお願いがあります」 「お願い?なに、なに」
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