10.それぞれの思い。演劇部がひとつになっていく

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「実はわたし達の舞台を観てほしい人がいます。土田さんのおばあちゃんなんですけど、病気で学校に来るのが難しいそうです。でも土田さんの舞台を観て元気になってほしいんです。だからなにか方法があれば協力してほしいです。よろしくお願いします」 わたしが頭を深々と下げると、演劇部のみんなも「よろしくお願いします」と頭を下げて、言葉を待った。 「そうですね。ぜひ観てもらいましょう」 「本当ですか?ありがとうございます」 杏也(きょうや)先輩の言葉にみんなで顔を見合わせて喜ぶ。本当によかった。これで土田さんのおばあちゃんにも観てもらえる。 「よかったね。これでおばあちゃんもきっと元気になるよ。でもどうやって観てもらうの?」 「それなら私に任せてください。映像部の部長に協力していただきましょう」 「協力してくれるかな?」 「大丈夫ですよ。きっと阿左美(あざみ)先輩は私のお願いを断らないはずです」 その言葉と杏也先輩の嘘くさい笑顔が怖い。阿左美先輩がいっていた言葉は間違っていないんじゃないのかなって思えてきた。杏也先輩を怒らせるようなことはしないようにしないと。 「それならいつでも観れるように撮影もしてDVDでプレゼントもしようよ」 「いいですね。早速阿左美先輩に相談しましょう」 なんだか大がかりなものになりそうだとプレッシャーもあるけど、だんだんと本番が近づく緊張感と楽しみって気持ちが一緒に押し寄せてきて、もっと頑張らないとって気持ちが引き締まる。 「先輩方、ありがとうございます。よろしくお願いします」 土田さんの顔からはもう悩んでいたときのつらそうな、怯えたような雰囲気が消えてなくなっているみたいに見える。笑顔にするお手伝いができたのかなって思うと、それだけでこんなにもわたしまでうれしくなるんだ。
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